ヴィーガンはオーガニックを選ぶ?有機栽培や無農薬野菜の違いと選ばれる理由

オーガニック(有機栽培)された野菜

野菜に対する強烈なこだわりを持ってそうなイメージがある、ベジタリアンやビーガンなどの菜食主義者。

その野菜へのうるささと、徹底した健康への配慮から、「ビーガン = オーガニック(有機)」と考える人も少なくありません。

実はビーガンやベジタリアンはオーガニックである必要はないのですが、健康を気にする菜食主義者には、積極的にオーガニック食材を選ぶ人も多いです。

オーガニックや無農薬作物などには、「身体に良い」「病気が防げる」などのいろんな見解が存在しますが、健康のためにビーガンやベジタリアンを実施するなら正しく理解しておきたいところです。

そこで今回は、ビーガンやベジタリアンの界隈でもよく論点となる、食品の”オーガニック”について解説します。

オーガニックの食べ物とは?

マーケットに並ぶオーガニック(有機栽培)の野菜

まず初めに、”オーガニック”の定義について簡単に確認しておきましょう。

オーガニック(Organic)は日本語に訳すと”有機”という意味で、特定の条件下で生産された野菜や果物、畜肉などの農畜産物や加工食品を指します。

また、化粧品などにもオーガニックや有機の表示があるものもありますが、今回は食品に限定して解説します。

JAS(日本農林規格)認定のオーガニック食品

日本では、農林水産省が定めるJAS規格(日本農林規格)に法って、オーガニックの認定が行われています。

有機やオーガニックを名乗るにはJAS規格をクリアする必要があり、審査を通過した農作物や加工食品だけが、有機JASマーク(オーガニック認定マーク)をつけることができます。

また、JASの認定なしには、商品パッケージなどで”有機”や”オーガニック”という表現を使用することがJAS法により禁止されています。

※JAS認定を受けずとも、有機栽培の基準に従って栽培している農家も存在します。飲食店では、そのような非認定農家から仕入れた野菜で”有機野菜の〇〇”というメニューを出したりもしますが、これは現状グレーゾーンでセーフのようです。

無農薬とは違うオーガニック

国内には有機栽培の農作物に加え、”無農薬”として売られているものもありますが、オーガニックと無農薬はちょっと違います。

日本で”オーガニック”として売ることができる農作物の栽培には、JAS規格で定める31種類の農薬(化学的に合成されていない農薬)は使っても大丈夫で、全く農薬を使用しないわけではありません。

無農薬の農作物は、文字通り農薬が全く使用されない環境で栽培されたものに限ります。

非遺伝子組み換えとも違うオーガニック

「”遺伝子組み換えなし”ならオーガニックなの?」と思われることもあるオーガニックですが、遺伝子組み換えなしが必然的にオーガニックになるわけではありません。

ただし、オーガニック規格で「遺伝子組み換え使用不可」となっているため、有機マークのある食品には遺伝子組み換えは使われていません。

有機栽培と特別栽培の違い

4種類オーガニック(有機栽培)の野菜

有機(オーガニック)栽培と無農薬栽培以外にも、最近増加傾向にある”特別栽培”と呼ばれる農作物の栽培方法があります。

農薬の使用に関して特段厳しい制限を設けない、最も一般的な栽培は慣行栽培と呼ばれますが、特別栽培は、使用する化学肥料と農薬の量(散布回数)を”通常の半分以下”に減らした栽培のことを言います。

農家が取り組みやすい特別栽培

有機栽培でも「31種類の農薬は使ってOK」となっていますが、それでもオーガニック認定の基準は厳しく手間もかかることから、日本ではあまり普及が進んでいないのが現状です(全体の0.5%未満)。

そこで、減農薬や減化学肥料への取り組みを促進させる目的もあって、化学肥料や化学合成農薬の使用を50%に削減した農作物には、”特別栽培農産物”と表示ができるようになりました。

種付け前は化学肥料・農薬OK?

有機(オーガニック)の認定を受けるためには、作物の栽培期間だけでなく、種付け・根付けの2年前までさかのぼって、同じ土壌で化学的肥料や農薬を使用することができない決まりになっています。

一方、この特別栽培では、種付け前における化学合成肥料等の特別な規制はなく、栽培期間中だけが対象となっています。

ハードルが有機栽培よりもぐっと低くなる特別栽培は、表示することで農作物の差別化にも繋がるため、ここ数年で実践する農家が増加傾向にあります。

加工食品のオーガニック基準

オーガニック(有機栽培)のクッキー

オーガニック(有機)といえば、野菜や果物などの農産物そのものをイメージするかと思いますが、加工食品でもオーガニックと呼べるものがあります。

日本ではオーガニック加工食品の数はあまり多くありませんが、お醤油や味噌から、ジャム、パンやお菓子などまでも、オーガニックになり得る食品です。

原材料の95%が有機栽培されたもの

有機加工食品としての認定を受けるには、水と食塩を除く原材料の95%がオーガニック栽培されたものであることが基本になります。さらに、加工過程でも、洗剤や農薬などの汚染を受けないように管理された場所で製造する必要があります。

5%は許容範囲内とされている日本ですが、オーガニック認証が進んでいるアメリカでは、通常の”Organic(95%有機)”表記に加え、”100% Organic(100%有機)”と”Made with Organic(70%以上有機)”という表記も採用しています。

オーガニック普及の背景

スーパーのオーガニック(有機栽培)トマト

有機栽培を実践する農家の割合がまだまだ少ない日本でも、有機食品市場は1,500億円近い市場へと成長していて、今後もその伸びが期待されています。

また、アメリカでは、オーガニック食品市場は4兆7千億円(2016年)と巨大市場になっていて、今もなお、毎年約10%の成長を続けています。

オーガニック市場成長の背景

病気のリスクを下げるとか、より身体にいいとか、健康への効果が注目されるオーガニック。

有機で栽培された作物が消費者や農家の人々から選ばれる背景には、こうした”食の安全”という動機に加えてもう一つ、環境保全的な側面もあります。

有機栽培が支持される2つの理由

世界各国において有機栽培が国家レベルで推進され、オーガニック食品が消費者から支持される背景には、有機栽培をすることで以下の2つのメリットがあることが関連しています。

  1. 体内にはいる化学物質を減らせる
  2. 自然環境への影響を小さくできる

今後、日本を含め、世界中でさらなる普及が予測されるオーガニック食品ですが、背景ももう少し詳しく確認しておきましょう。

理由1. 体内に入る化学物質を減らせる

慣行栽培農場の水撒き機材

もちろん、オーガニック食品において私たち一般消費者にとって一番のメリットとなるのは、健康への寄与です。

従来の慣行栽培では、毒性のある化学合成農薬が作物に付着したままになる残留農薬の問題があったり、化学肥料(窒素肥料)から出る硝酸塩などが収穫後の作物から検出される問題などがあります。

化学合成された肥料や農薬を使用しない有機栽培で育った野菜や果物を食べることで、身体に取り込まれるこのような有害物質を減らすことに繋がります。

作物の栄養価が高まる可能性

また、ちょっと物議をかもしている主張ですが、化学物質摂取の低減に加え、有機栽培の作物はより栄養豊富だという見解もあります。

海外のいくつか研究では、有機栽培の作物には特定のビタミンやミネラル、抗酸化物質(ポリフェノールなど)が、従来の栽培方法で育てたものよりも多く含まれているという結果が出ています(英文研究1, 2, 3, 4)。

理由2. 自然環境への影響を小さくできる

収穫したてのジャガイモを手にする有機栽培農家の人

身体への影響が大きく取り上げられるオーガニック食品ですが、有機栽培は、環境への影響を小さくしたり、野生動物たちの生態系を極力崩させないための試みでもあります。

例えば、慣行栽培では化学的に合成された農薬を大量に自然界に放出するため、そうした毒性のある化学物質はもちろん野生動物の体内にも入り込まれてしまいますが、有機栽培ではそのような心配がありません。

化学物質による環境汚染

慣行栽培で使用される化学肥料や合成農薬などの化学物質は、空気中だけでなく土壌にも浸透し、それらは土壌を通じて川や池にも放出されています。

これらの化学物質が生態系にどこまで悪影響を及ぼしているかははっきりと解明されていませんが、慣行栽培によって、本来自然界に存在しない化学物質が自然界の隅々まで行き届いてしまっていることは確かなことです。

最大限自然を配慮する努力が有機栽培

有機であろうとなかろうと、人間が農耕地を開拓すること自体、自然界の本来のサイクルからは逸脱した活動で、ある種の自然破壊だという見方もできます。

しかし、私たち人間が食べていくために農業は必要不可欠で、それを可能な限り自然に近い形で行うことで環境と生態系への負担を極力減らそうとするのが、有機栽培が目指すことの一つです。

「オーガニックは体に良い」の真相

色とりどりの切ったオーガニックフルーツ

化学物質を使用しないなど、慣行栽培よりも自然に近い形で行われる有機栽培ですが、実際のところ、私たちの身体にはどれくらいの影響をもたらしてくれるのでしょうか?

「オーガニックじゃないと嫌だ!」と言う人もいる一方で、「別に大差ないでしょ…」と全く気にしない人もいますが、どちらのポジションも支持する研究があります。

オーガニックによる健康メリットの真相は、結局のところ「どちらの情報を信じるか」というところ次第ではありますが、オーガニックと健康にまつわる海外の研究結果をいくつか紹介します。

オーガニックは栄養価が高い?

上でも少し触れましたが、オーガニック食材には、ビタミンCや亜鉛・鉄分などのミネラル、抗酸化物質が比較的多く含まれるとした研究がいくつかあります。(英文研究1, 2, 3, 4)。

また、抗酸化物質の含有量は最大で69%も多くなるとした研究も存在しています(英文研究1, 2)。

有機栽培で栄養は変化しない?

しかしながら、”有機栽培による栄養増加”を否定する研究も多数存在します(英文研究1, 2, 3)。

収穫後のどのタイミングで測定するかや、栽培されていた地域によっても差異のある栄養価ですので、「オーガニックの方が栄養が多い」と一概には言えないのが現状といったところでしょう。

オーガニックには残留農薬が少ない

有機栽培された作物には、残留農薬が少ないことが確認されています。

そもそも認定された31種類以外の農薬は使わないため、慣行栽培で使用される化学合成農薬等が作物に付着することはありませんし。

慣行栽培で使用される農薬は、摂取量によってはガンのリスクを高めたり、生殖機能や免疫システムなどにも悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

ただし、ガン発症率は下がらない

ガンとの関連性が指摘される農薬ですが、オーガニック食材を積極的に摂取しても、ガンの発症率には違いがないという見解が有力視されています。

62万人以上を対象に行った大規模調査では、オーガニック食品を頻繁に取り入れていた人々と、オーガニック食品を一度も食べたことのない人々の間で、ガン発症のリスクに違いが見られませんでした(英文研究)。

少ないに越したことはない残留農薬

慣行栽培で使用される化学合成農薬も全て人体への影響をテストしたもので、野菜や果物の表面を洗ったり、皮を向いたりすることで残留農薬を相当量落とせることが確認されています。

もちろん、農薬は身体に入るよりは入らない方がいいのですが、「オーガニックを中心の食生活でガンが予防できる」とは断言できません。

オーガニックには硝酸塩が少ない

オーガニックの食材には、人体に有害とされている硝酸塩の含有量が低いことも、いくつかの研究で確認されています(英文研究1, 2)。

主に化学肥料(窒素肥料)から出る硝酸塩ですので、化学肥料を使わない有機栽培の作物に硝酸塩が少ないことは疑いようがありません。

この硝酸塩は、特定のガンや、新生児に多いメトヘモグロビン血症の発症と関連しているとされています(英文研究1, 2)。

でもガン予防にはらない

ガンとの関連性が確認されている硝酸塩ですが、上にもあったように、オーガニックを食べても食べなくても、ガン発症率には違いがないというのが通説です。

有機栽培で減らすことができるの硝酸塩は3割程度とも言われているので、やはりここでも、オーガニック食材だけでガン予防になるとは現時点では言えません。

オーガニックにはカドミウムが少ない

硝酸塩に加えて、イタイイタイ病の原因としても有名な有害物質、カドミウム(Cadmium)も、オーガニック食材には少ないということも確認されています。

カドミウムは天然にも広く存在していますが、体内に蓄積しやすい重金属で、発ガン性も認められいます。

土壌が関わるカドミウム含有量

有機栽培作物に含まれるカドミウムは、慣行栽培されたものと比較して約半分(48%減)となっています(英文研究)。

作物内のカドミウム蓄積には土壌質が関連しているとされていて、化学肥料も使わずに土壌管理を徹底する有機栽培では、カドミウムの蓄積を大幅に低減できると見られています。

慣行栽培でもカドミウムは少量

身体に有害であることは疑いようのないカドミウムですが、実は慣行栽培であっても、収穫した作物に含まれるカドミウム量は国が定める基準値のはるかに下です。

有害物質の摂取量を従来よりも減らせることは確かですが、そもそも身体に害が出ないレベルしか体内に取り込んでいません。

そのため、オーガニック食材によるカドミウム摂取の低減が、直接的に病気予防に繋がるかと聞かれればこれも微妙なところです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は、ビーガンやベジタリアンを実践する際には必ず知っておきたい、オーガニック(有機栽培)についてお伝えしました。

オーガニックの効果というのは断言できないのが現状ではありますが、私たちの健康や自然環境にとって有害なものを極力排除することを目的としたオーガニックは、ビーガンやベジタリアンなどと通じるところも多々あるかもしれません。

「ビーガンはオーガニックでなくてはダメ」ということはありませんが、なるべく積極的にとっていきたいところです。

ぜひ、野菜や果物を選ぶ際には、今回の情報を参考にしていただければと思います。