様々なシーンで耳にする機会も増えた、お肉やお魚を食べないヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義。
「厳格」や「ストイック」なイメージも強い菜食主義者ですが、近年はフレキシタリアン(Flexitarian)と呼ばれるゆるめの菜食主義も世界中で注目を集めています。
このフレキシタリアンは、動物性の食品を完全に排除するヴィーガンやベジタリアンとは違い、「野菜中心の食生活だけど、お肉やお魚も食べる」という柔軟な食のスタイルです。
多数の健康メリットも噂されるこのフレキシタリアンは、その実践ハードルの低さゆえに、欧米諸国を中心に実践者が急増中。
今回は、そんな「ゆる系ベジタリアン」のフレキシタリアンについて、世界トレンドや実践するメリット・デメリットなどを詳しくご紹介します。
目次
フレキシタリアンとは?
イギリスから広まり、現在は欧米諸国で広く浸透しているフレキシタリアンと呼ばれる食生活。
肉食大国のアメリカでも、2020年のある調査では4人に1人がフレキシタリアンという結果が出るほどの浸透ぶりで、その注目度の高さが伺えます(参考)。
その流行の背景を紐解く前に、まずはフレキシタリアンとは一体何なのか、概要を簡単におさらいしておきましょう。
お肉を食べる菜食主義?
ヴィーガンやベジタリアン、さらにはペスカタリアンなど多岐にわたる菜食主義ですが、フレキシタリアンも広義の菜食主義に位置付けらる食生活です(論文)。
一般的にはお肉やお魚などの動物性食品を全く口にしないことで知られる菜食主義者ですが、フレキシタリアンはお肉やお魚も食べる菜食主義で、その「ゆるさ」に特徴があります。
※ お肉やお魚を食べることから、フレキシタリアンを菜食主義と呼ぶことに反対する意見もありますが、学術論文でも菜食主義の一つとして扱われていることから、本サイトでは菜食主義の一つとしてご紹介します(論文)。
フレキシタリアンの語源は「柔軟性」
フレキシタリアンは英語でFlexitarianと書くのですが、この単語の前半部分のFlexiは、柔軟性を意味するFlexibleからきています。
フレキシブル(Flexible)は日本語訳で「柔軟な」という意味で、この単語の前半部分である「フレキシ」に、ベジタリアンなどでも使われる「タリアン」を組み合わせた単語です。
この言葉が表す通り、動物性の食べ物も口にするフレキシタリアンは、柔軟性の高い菜食主義として認識されています。
フレキシタリアンのその他の名称
フレキシタリアンと呼ばれることが一般的ですが、この柔軟な菜食主義は他にも以下のように呼ばれることもあります。
- セミ・ベジタリアン(Semi-vegetarian)
- カジュアル・ベジタリアン(Casual vegetarian)
どの名称を使うかは個人の自由で良いかと思いますが、フレキシタリアン(Flexitarian)は、過去にアメリカで食品界の流行語(最も便利な言葉)に選出されたこともある呼称です(参考)。
フレキシタリアンという言葉を使っていれば、国内外問わず問題なく通じるでしょう。
フレキシタリアンの定義
「お肉もお魚も食べる菜食主義」という説明だけでは、普通の食生活とも違いが分かりませんので、もう少し詳しくみていきます。
先述の通り、フレキシタリアンはお肉もお魚も口にするのですが、「基本はベジタリアンで、たまにお肉も食べる」という定義をされることが一般的です(参考)。
ただ、実態としては「ベジタリアンが基本」という定義に縛られる必要はなく、可能な範囲で植物性食品を増やす意識さえあればフレキシタリアンと呼ぶことができるでしょう。
具体的にどういうことか、掘り下げてみます。
幅広い解釈ができるフレキシタリアン
あくまで筆者の個人的な印象ですが、海外生活の中では、「どれくらい野菜を食べるとフレキシタリアン」とか、「どれくらいお肉を食べたらフレキシタリアンじゃなくなる」というカチッとした境界線は存在しません。
実際に、筆者が知る範囲に限定して見ても、フレキシタリアンを自称する人々の食生活は千差万別です。
以下に、筆者が知る自称フレキシタリアンたちの食生活の例を挙げてみます。
- 家では基本ベジタリアンだが、外食では何でも食べる
- 週の半分くらいはベジタリアンを意識している
- お肉の替わりになるべくお豆や大豆ミートを食べるようにしている
- 週に数回は、お肉やお魚を食べない日をつくっている
- 平日はベジタリアンで、週末は何でも食べる
- お肉を食べるとしても鶏肉だけで、他のお肉は食べない
- できるときだけベジタリアンやヴィーガンにしている
※ 上記以外にも、「お肉は食べないけど、お魚は食べる」という食生活を送る人もいます。このような食生活はペスカタリアンとも呼ばれます。
柔軟性がフレキシタリアンの良さ
上記のように、フレキシタリアンは幅広く解釈可能な言葉で、個々の事情に合わせて無理なく、社会生活に支障のない範囲で実施できるのも、この食生活の良さの一つと言えるでしょう。
ただ、どんな食生活でもフレキシタリアンと呼べてしまうのは問題かと思いますので、フレキシタリアンと呼べる最低ラインを設けるとすれば、「平均的な食生活よりお肉を食べる量が少ない」という点になるかと思います。
※「○割以上ベジタリアンでなければフレキシタリアンと名乗る資格はない」なんていう主張もあるかもしれませんが、海外での実態はそうではありません。細かい定義に囚われず、ご自身の納得できる食生活を送っていただければ幸いです。
フレキシタリアンとヴィーガンの違い
自由度の高いフレキシタリアンですが、他の菜食主義とはどのような違いがあるかも確認しておきましょう。
以下に示すように、菜食主義には様々な種類がありますが、フレキシタリアン以外で代表的な菜食主義は太字の3種類です。
- ヴィーガン(ビーガン)
- ベジタリアン
- ペスカタリアン(ペスコ・ベジタリアン)
- ラクト・ベジタリアン
- オヴォ・ベジタリアン
- ラクト・オヴォ・ベジタリアン
- ロー・ヴィーガン
- フルータリアン
- ポゥヨゥ・ベジタリアン
- ノン・ミート・イーター
※ 太字の3つ以外はマイナーであったり、太字の3つのどれかに包含されたりするため、詳細の説明は割愛させていただきます。
菜食主義ごとの食べる/食べない
代表的な菜食主義は、上のリストで太字にしたヴィーガン、ベジタリアン、ペスカタリアンですが、それぞれに「食べる/食べない」の線引きが異なります。
フレキシタリアンと、これら3種の菜食主義の違いを、下の表で確認してみましょう。
カテゴリー | 肉 | 魚 | 牛乳 | 鶏卵 | 蜂蜜 |
---|---|---|---|---|---|
ヴィーガン | × | × | × | × | × |
ベジタリアン | × | × | ◯ | ◯ | ◯ |
ペスカタリアン | × | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
フレキシタリアン | △ | △ | △ | △ | △ |
※「×」は食べない食材で「◯」は食べる食材。「△」は消費量を減らす食材、もしくは人によって「食べる/食べない」が異なる食材です。
表の通り、ヴィーガンが最も「食べられない食材」が多い菜食主義で、基本的には卵や蜂蜜なども避ける食生活です。
次いでベジタリアン、ペスカタリアンの順に食べてOKな食品群が増えていき、「最も食べられる食材が多い菜食主義」としてフレキシタリアンが存在しています。
海外のフレキシタリアン人口トレンド
基本的には動物性の食品を「減らすだけ」で、これまでの通り好きな食べ物も楽しみながら実践できるフレキシタリアン。
そんなハードルの低さから、アメリカやイギリスなどの欧米諸国を中心に、フレキシタリアン人口は右肩上がりに増加しています。
具体的にどれくらい増加してるのか、そして、このムーブメントの背景には一体何があるのか、もう少し詳しく見ていきたいと思います。
イギリスは3人に1人がフレキシタリアン?
冒頭でも触れましたが、今やあの肉食大国アメリカでも、4人に1人がフレキシタリアン*と考えられています(参考)。
そして、その更に上を行くのがイギリスで、ある調査では3人に1人以上(34%)がフレキシタリアンであると報告されています(参考)。
また、別の調査では、欧州全体でも22.9%の人が、フレキシタリアンに該当する菜食主義を実践していると報告しています(参考)。
※ GALLUPの調査でフレキシタリアンという言葉は使われていませんが、アメリカの成人のうち「23%が肉の消費を減らした」との結果が報告されています。
英国発祥のミートフリー・マンデー
上記のように、数字で見てもその浸透ぶりが一目瞭然なフレキシタリアンですが、この背景には著名人による活動なども関係していると考えられています。
菜食人口増加に影響を与えていると考えられる活動の一つがミートフリー・マンデー(Meat Free Monday)と呼ばれるもので、発起人はビートルズのポール・マッカートニー氏です。
ミートフリー・マンデーはその名の通り、「月曜日はミートフリー(お肉を食べない日)にしよう」と推奨するもので、2009年にイギリスで発足以後、多くの著名人にも支持されています。
日本でも有名なトム・ハンクスやオーランド・ブルーム、ビリー・アイリッシュなども支持者で、こうした影響力を持つ著名人の発信も、欧米諸国でのフレキシタリアン人口増加の背景にあると考えられます(参考1, 参考2)。
1月限定ヴィーガニュアリーも
他にも、ヴィーガニュアリー(Veganurary)と呼ばれるコミュニティーサイトも、フレキシタリアンの増加を後押しするムーブメントのひとつに挙げられます(参考)。
Veganuraryは、Veganと、1月を意味するJanuaryを組み合わせた単語で、ご想像の通り「1月はヴィーガンで過ごしてみましょう」と訴える活動です。
こうした活動等もあって広がりを見せるフレキシタリアンですが、実際に私たちに与える健康メリットなども気になるところ。
ここからは、フレキシタリアンを実践するメリット・デメリットについても見ていきます。
フレキシタリアンのメリット・デメリット
前述の通りフレキシタリアンは、「野菜中心の食生活だけど、お肉やお魚も食べる」という柔軟な食のスタイル。
様々な食生活をフレキシタリアンと呼ぶことができるため、全てを一括りにしてメリットやデメリットを語ることはできません。
一方で、植物性食品の比重を増やすという観点ではヴィーガンやベジタリアンと同様と捉えることも可能で、「他の菜食主義と似たメリットを享受できるポテンシャルは持っている」と言って良いかもしれません。
フレキシタリアンによる健康、環境、動物福祉への影響
ヴィーガンやベジタリアンなど菜食主義のメリットとしては、主に以下の3つが挙げられます。
- 健康改善のポテンシャル
- 環境問題解決へのポテンシャル
- 動物福祉向上のポテンシャル
人によって千差万別なフレキシタリアンですので、どんなフレキシタリアンにも当てはまるとは言えませんが、それぞれのメリットについて詳しくみていきましょう。
フレキシタリアンの健康メリット
まず、フレキシタリアンの食生活で最も注目されるメリットが、健康改善のポテンシャルです。
定義の曖昧なフレキシタリアンですので一概に言えないのは当然ですが、フレキシタリアンのポテンシャルを調べた研究によると、以下の3つが健康メリットとして挙げられています(論文)。
- ダイエット効果の可能性
- 血圧を下げる効果の可能性
- 糖尿病のリスクを下げる可能性
あくまで「可能性」の粋を出ませんが、それぞれについてもう少し掘り下げて見てみましょう。
フレキシタリアンはダイエットに効果的?
まず、フレキシタリアンの健康メリットのひとつとしてよく言われるのが「体重減少」、すなわちダイエット効果です(論文)。
ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義は、研究レベルでも減量に向いていると言われる食生活(論文1, 論文2)。
もちろん、フレキシタリアンにおいて「どれくらい動物性の食品を減らすか」は人それぞれですので一概には言えません。
ただ、お肉などの動物性食品をお豆などの植物性に置き換えたり、お野菜中心の食生活を送ることは、理想の体型を手に入れる近道となるかもしれません。
フレキシタリアンで血圧が下がる?
その他にフレキシタリアンの健康メリットとして言われるのが、高血圧の方には嬉しい血圧を下げてくれる可能性です(論文)。
一般的な菜食主義は、食物繊維や抗酸化物質を豊富に摂取する傾向にあるため、ベジタリアンやヴィーガンは血圧が上がりにくく、心臓病のリスクも低いとされています(論文1, 論文2, 論文3)。
このメリットについても、フレキシタリアンに当てはまるかどうかはやり方次第で人それぞれ。
ですが、お肉を減らし、植物性中心の食生活を送ることで、ベジタリアン同様に血圧が改善する可能性はゼロではないでしょう。
フレキシタリアンは糖尿病になりにくい?
さらに、フレキシタリアンは糖尿病になりにくいとする研究も存在します(論文)。
この研究では、通常の食生活と比較したとき、お肉などを減らすフレキシタリアンは二型糖尿病の割合が低くなるという傾向が示されています。
一方で、ヴィーガンやベジタリアンと比較して見ると、フレキシタリアンの糖尿病割合は高い結果に(論文)。
どんな食生活でも一括りに評価したり、健康効果を謳ったりすることはできませんが、植物性食品の比重を高めることは、こうした疾患リスクの低減に繋がる可能性を秘めているのですね。
フレキシタリアンのその他の健康メリット
上記の3つ以外にも、植物中心の食生活は「ガンになりにくい」「ニキビができにくい」などと噂されることもあります。
どのように解釈するかは読者の皆様にお任せしますが、こうした可能性を示唆する研究が存在するのは事実で、参考までに論文を載せておきます。
その他、菜食主義の健康ポテンシャルについては別記事もご覧ください。
フレキシタリアンの環境メリット
上述の通り、フレキシタリアンを含む菜食主義で最も注目されているのが、健康状態の改善です。
それに加えて近年のある調査では、菜食主義者の35%が環境問題を動機にお肉を減らす食生活をしているとの結果が出ています(参考)。
日本でも菅総理の就任以後、「2050年脱炭素社会」へ向けた動向が注目を集める環境問題ですが、菜食主義がどのように関係しているのか、少し詳しく見てみます。
温室効果ガスの1/4は食品から排出
環境問題と言えば、一番の懸念は地球温暖化。
その温暖化の原因となっているのが二酸化炭素などの温室効果ガスで、環境問題の解決には温室効果ガスの排出量削減が欠かせません。
自動車の排気ガスや火力発電ももちろん問題ですが、温室効果ガスの26%は食べ物から出ていると考えられています(論文)。
最も環境に悪い食べ物が「お肉」
食べ物から1/4以上もの温室効果ガスが出ていること自体驚きですが、食材ごとに分類してみると、環境問題への懸念を理由に菜食主義者が増える理由が見えてきます。
お肉などの動物性食品は特に温室効果ガスの排出量が多く、一方で植物性食品は動物性の1/10以下の温室効果ガスしか出しません(論文)。
「お肉のかわりにお豆を食べる」など、植物性の割合を増やすことは、地球温暖化の解決にも寄与するエコな食生活とも言えるのです。
ヴィーガンが最も環境に優しい食生活
ちなみに、植物性の割合が多いほど環境負荷は下がる傾向で、数ある菜食主義者の中でもヴィーガンが最も環境に優しいとされています。
オックスフォード大学の研究は、ヴィーガンを実践することで、食品由来の温室効果ガスが49%減るとしています(論文)。
フレキシタリアンの環境効果は、どの程度お肉を減らすか次第で異なりますが、例え週一日の実践だとしても、環境への貢献に繋がっていくでしょう。
フレキシタリアンの動物福祉メリット
健康、そして環境問題に加え、フレキシタリアンには動物福祉におけるメリットもあると考えられます。
動物福祉や動物愛護などのエシカルな観点からは、家畜の屠殺はもちろん、劣悪な環境下での飼育が問題視されています。
フレキシタリアンの実践で、どのように動物福祉に貢献できるかもう少し掘り下げてみましょう。
年間700億以上の屠殺
まず、国連のデータを参照してみると、年間に770億もの家畜が人間の食料として殺されていることが見えてきます(参考)。
この数字をどう捉えるかは人それぞれですし、食料以外にも、多くの動物や生き物が犠牲となる人間の経済活動は無数に存在します。
ただ、動物性の食品を減らすフレキシタリアンなどの菜食主義は、この数字を減らすことには繋がると言えるでしょう。
劣悪な環境下での飼育の問題
また、動物を食べること自体に異論はなくとも、「劣悪な環境下での飼育」に対して反対する考えもあります。
このような考えを持った人は、例えば、
- 普通の卵は食べないけど、フリーレンジ(放し飼い)やケージフリー(平飼い)の卵なら食べる
- 普通の牛肉は食べないけど、放牧牛のグラスフェッドビーフなら食べる
など、飼育環境を判断基準に「食べる/食べない」の線引きをしたりします。
フレキシタリアンでもエシカルに
このような「食べるなら、ちゃんとした環境で育てられたものを」という考え方は、海外のフレキシタリアンに多く見られる傾向です。
もちろん、全く動物を犠牲にしないヴィーガンに比べれば、フレキシタリアンの動物福祉的な貢献度は低くなります。
ですが、フレキシタリアンのようなエシカルな消費行動が広く浸透すれば、間接的に家畜の飼育環境改善を促すことに繋がり、動物福祉にも寄与していくと考えられるでしょう。
フレキシタリアンのデメリット
実践するのも簡単でありながら、健康改善や環境問題解決への貢献、動物愛護など、様々なメリットのポテンシャルを持ったフレキシタリアン。
ですが、やるからにはデメリットもしっかり確認しておきたいところですよね。
フレキシタリアン実践のデメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
- 栄養不足に陥る危険性
- メリットが受けられない可能性
- 日本では理解されにくいことも
それぞれについて、もう少し詳しく見ておきましょう。
栄養不足に陥る危険性も
菜食主義は一般的に、特定の栄養素が不足しやすい傾向にある食生活と考えられています。
体質や実践方法などの個人差もありますが、お肉もお魚も食べるフレキシタリアンは、ヴィーガンなど他の菜食主義と比べると、栄養不足に陥るリスクは低いと考えられます。
しかしながら、注意を怠ればどんな食生活でも栄養失調リスクは存在しますので、菜食主義で不足注意な7つの栄養素について、別記事で確認しておくと良いでしょう。
メリットが受けられない可能性も
フレキシタリアンの良いとろこは、個々に無理のない形で実践できる柔軟性ですが、その自由度ゆえに、定義がはっきりと存在していません。
そのため、単にフレキシタリアンになるだけでは先述したようなメリットにつながらない可能性も大いに考えられます。
健康や環境、動物福祉にどれくらい貢献できているか知るためには、植物性の食品を何割くらい増やせているかなどにも気を配る必要があると言えるでしょう。
日本では理解されにくいことも
海外では広く浸透しているフレキシタリアンという食生活ですが、日本での知名度はまだそれほど高くはありません。
ヴィーガンやベジタリアンという言葉は既に多くの日本人が認知していますが、「フレキシタリアンなの」と自己紹介しても、「ん?なにそれ?」と聞き返されてしまうかもしれません。
説明するのが苦にならない方であれば大丈夫ですが、面倒な方はこの記事のリンクを送ってあげても良いかもしれません。
なぜ人々は今、フレキシタリアンに?
フレキシタリアンの概要からメリット&デメリットまで、幅広く紹介してきましたが、最後に海外でフレキシタリアン人口が急増している理由を探ってみましょう。
もちろん、これまでの内容から「なんとなく実践する理由は分かった」という方もいらっしゃるかと思いますが、フレキシタリアンを実践する動機は主に以下の4つです。
- お肉は身体に良くないと考える
- お肉は環境に悪いと考える
- なるべく生き物に優しくありたいと考える
- ベジタリアンは難しいと考える
それぞれの動機について、国民の1/3以上がフレキシタリアンと言われるイギリスの調査等を基に、さらに詳しくみていきましょう。
お肉は身体に良くないと考える
まず、お肉の消費を減らす最も大きな動機にあげられるのが、お肉の健康懸念です。
フレキシタリアンの健康メリットは上でも簡単に解説しましたが、イギリスのある調査では、菜食主義者の24%が「健康が一番の理由」と回答しています(参考)。
お肉の健康リスクを示唆する研究は数多く存在していますが、最も影響力があるとされるのが、世界保健機関(WHO)のレポートかと思います。
WHOがお肉を発癌性物質に認定?
そのWHOのレポートには「お肉を発ガン性物質として認定しました」と記載されていて、欧米諸国ではこの発表が、お肉に対する消費者意識を大きく変えたターニングポイントとも考えられています。
また、ガン以外にも以下のような疾患との関連性を示唆する研究も存在ます。
WHOのレポートを含め、これらの研究をどのように捉えるかは読者の皆様にお任せしますが、健康を動機とするフレキシタリアンが増加する背景には、こうした論文の影響も大きいと言えるでしょう。
お魚も食べ過ぎ注意?
また、フレキシタリアンはお肉だけでなく、魚介類などの消費も減らすのが一般的です。
魚介類はオメガ3脂肪酸など健康成分が注目されますが、その一方で、水銀やPCB(ポリ塩化ビフェニル)、ダイオキシンなどの化学汚染物質への懸念も存在します(論文1, 論文2, 論文3)。
通常の摂取量では人体に害は出ないと考えられる魚介類ですが、日本でも厚生労働省が「妊婦さんはマグロは週に80gまで」と摂取上限を設けていたり、注意も必要です(厚生労働省)。
「魚介類の良いとろこは大切に、なるべくリスクは減らしたい」なんて方には、フレキシタリアンはぴったりかもしれませんね。
お肉は環境に悪いと考える
健康の他にも、フレキシタリアン実践の動機として環境問題が考えられます。
イギリスYouGovの調査では、菜食主義者の35%が環境問題を一番の動機に挙げています(調査)。
上の「フレキシタリアンのメリット」のセクションでも簡単に触れましたが、地球温暖化の1/4は食料が原因で、お肉などの動物性が特に環境負荷が重いとされています(論文)。
エコカーよりもエコフードが効果大?
地球温暖化対策としては、エコカーや再生可能エネルギーなどに目が向けられますが、自動車から出る温室効果ガスは全体の16%で、食料の26%の方が遥かに大きいと考えられています(論文)。
さらに、食べ物の中でも動物性(畜産)が最も環境負担が重く、欧州では食品の温室効果ガスのうち80%以上が動物性由来とする試算もあります(論文1, 論文2)。
こうしたことからも、動物性食品を減らすフレキシタリアンは普通よりもエコな食生活であると認識されていて、環境保全などを動機としたフレキシタリアンも増加傾向にあります。
地球温暖化以外の環境問題も動機に
地球温暖化の他にも、以下の3つの環境問題もフレキシタリアン実践の動機に挙げられます。
- 森林伐採の抑制
- 水資源の保全
- 海洋生物の枯渇防止
動物性の食品の消費を減らすフレキシタリアンによって、温暖化以外にどんな影響が考えられるか、簡単におさらいしておきましょう。
地球温暖化以外の環境問題も動機に
まず、農業による森林伐採のうち77%が動物性食品起因とされていて、動物性食品を減らすことは森林伐採面積の縮小に繋がると考えられています(論文1, 論文2)。
また、人間が使用する真水の1/3が動物性食品のために使われ、植物中心の食生活によって水資源を守ることに繋がるとされています(論文)。
さらに、SDGsの発起人でもある国連は、天然魚の90%の近くに枯渇の懸念があるとしていて、フレキシタリアンは減り続ける魚の保全にも繋がるポテンシャルを持っています(国連)。
たくさんの情報をギュッと詰め込んでしまいましたが、フレキシタリアンは、環境問題に興味がある方々にも適した食生活と言えるでしょう。
なるべく生き物に優しくありたいと考える
イギリスのある調査では、菜食主義者の38%が動物愛護を一番の実践動機に挙げています(参考)。
動物性食品の量を減らすだけで「お肉を食べ続ける」フレキシタリアンですが、先述の通り食料として殺される家畜の数は年間700億以上。
フレキシタリアンの中には、この数字を可能な範囲で減らしたいという思いから実践している人も、一定数いると考えられています。
お肉の調達元を厳選するフレキシタリアンも
また、上でも少し触れましたが、動物福祉を意識した倫理的な視点から「ちゃんとした環境で育てられたお肉なら食べる」とするフレキシタリアンもいます。
この「ちゃんとした環境」とは何かというと、例えば以下のような食品が当てはまります。
- 放し飼い(フリーレンジ)の鶏肉や卵
- 放牧で飼育された牛肉や豚肉
- 放牧牛の乳から作ったチーズ
- 一本釣りされた天然魚
どれも個人の価値観次第で自由ですが、どうして上記の4つであれば許容される場合があるのか、もう少し詳しく解説します。
放し飼い(フリーレンジ)の鶏肉や卵
動物福祉的な視点からは、通常の養鶏場は劣悪な環境とされるのが一般的です。
従来型の養鶏場内には無数のカゴが並べられ、それぞれの狭いカゴに何羽もの鶏がひしめき合っている状態となっていて、屠殺時まで羽を伸ばすこともできないのも一般的です。
一方で、フリーレンジなどと呼ばれる放し飼い養鶏では、屋外での飼育日数が義務付けられていたり、従来型よりも動物福祉に配慮した飼育方法だと認識されています。
※「平飼い」や「ケージフリー」などの用語は、カゴに入れられていないことを意味するだけで、イコール屋外飼育ではありません。生産者ごとに飼育環境は異なりますので、詳細は生産者にご確認ください。
放牧飼育の牛肉や豚肉、乳製品
牛肉や豚肉に関しても、従来型では鶏と同じく、非常に狭い屋内環境での飼育が一般的です。
こうした背景から、自然に近い環境で飼育された放牧牛や放牧豚のお肉であれば許容できる、といった考え方も存在します。
また、牛乳やチーズ、ヨーグルトやバターなどの乳製品も例外ではなく、放牧牛からとれた牛乳で作ったものだけを口にするフレキシタリアンもいます。
自然に近い放牧は、動物にとってストレスや恐怖の少ない環境と考えることができ、アニマルウェルフェア的価値観にも配慮した畜産と言えるかもしれません。
※「グラスフェッドビーフ」や「グラスフェッドバター」などの用語は、牧草を食べて育ったことを意味するだけで、放牧か否かは無関係です。詳細は生産者にご確認ください。
一本釣りされた天然魚
お魚に関しては、従来型の巻き網漁やひき網漁、刺し網漁などでは、お魚の乱獲に繋がるだけでなく、ウミガメやイルカなど、意図しない海洋生物を捕獲してしまう問題があります。
この問題の解決策として注目されているのが、目的の魚のみを、目的の数だけ獲れる一本釣り漁法です。
いくつもある漁法の中で唯一サステナブル(持続可能)な漁法と考えられていて(参考)、イルカなどの動物福祉だけでなく、乱獲や枯渇などの環境問題の視点からも許容されることがあります。
ちなみに養殖魚の場合、天然魚の枯渇防止に繋がる一方で、狭い空間で大量の魚を飼育することから動物福祉的にはあまり支持されていません。
価値観に合わせて自由に
上記の視点はどれも、あくまでフレキシタリアンに見られる一つの考え方に過ぎません。
捉え方は人それぞれで当たり前ですので、こうした視点なども参考に、ご自身の価値観に合わせてオリジナルな基準を作ってみるのもありでしょう。
何度も言いますが、自由で柔軟なところがフレキシタリアンの良いところです。
ベジタリアンは難しいと考える
ヴィーガンやベジタリアンなど、より制約の多い菜食主義に共感しながらも、その難しさゆえにフレキシタリアンを選択する人もいます。
上記した健康、環境、動物福祉などの問題解決を考えると、動物性の食品をゼロにするヴィーガンが最も理想的かもしれません。
ただ、ベジタリアンやヴィーガンなどは制約が多く、人間関係など日常生活に支障が出てしまったり、栄養面での不安なども付きまう、ハードルの高い食生活です。
ヴィーガンの栄養懸念について、詳しくはこちらの記事も。
「ちょうど良い」フレキシタリアン
好きな時に好きなだけ実践でき、なおかつ、健康改善や環境問題解決にもある程度の効果が期待できるのがフレキシタリアン。
イギリス人の1/3が実践している調査結果などからも、多くの人にとって「ちょうど良い選択肢」になっていると考えることができるでしょう。
他にも、最終的にはヴィーガンを目指していながらも、準備期間としてフレキシタリアンを選択するケースもありますので、そちらも簡単にご紹介します。
第一ステップとしてのフレキシタリアン
これは筆者のケースなのですが、筆者自身も、上記のような健康、環境、動物福祉などを理由に、「動物性食品を減らすべきではないか?」という思いを長年持ちながら、普通の食生活を送っていました。
ある日、「やっぱりヴィーガンになるべきじゃないか」と決心するも、いきなり動物性食品を断つことに対しては疑念も恐怖もありましたし、何より日常生活への影響が心配でした。
そのため、外食するお店やスーパーで買う食材を少しずつ変えていったりしながら、1年以上フレキシタリアンとして生活しました。
自分のペースでストレスフリーに
その後、ペスカタリアンを経て、最終的にヴィーガンを選択した筆者ですが、このようなステップを踏んでいった人は筆者の周りだけでも複数名いらっしゃいます。
結果として筆者が感じることは、フレキシタリアンをやらずにいきなりヴィーガンを実践していたら、逆にここまで長く続けてこれなかったかもしれない、ということです。
感覚としてはダイエット(減量)時のリバウンドと一緒で、いきなり「お肉ゼロ」に移行していたら、日常生活への影響などが過度なストレスとなり、どこかでその反動が押し寄せてきていたのではないかと感じます。
これは単なる個人の経験談、感想に過ぎませんが、ヴィーガンに興味がある方でも、まずはフレキシタリアンを試してみるのもアリかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、世界中で人口が急増中の、フレキシタリアン(Flexitarian)についてお伝えしました。
厳格なイメージも強い菜食主義の中において最もゆるく、柔軟に実践可能なこのフレキシタリアンは、健康や環境問題への懸念が強まる欧米諸国では新たなスタンダードにもなりつつあります。
ご興味のある方は、この記事にある情報も参考にしながら、自身の価値観やライフスタイルに合わせて、無理のない範囲で試していただければと思います。