ヴィーガンやベジタリアンなど、動物性食品をほとんど摂取しない食生活で心配なのは、なんと言っても栄養面の懸念。
「野菜だけなんて絶対栄養不足」というイメージも強いですし、菜食主義に興味があっても怖くてなかなか踏み出せないこともありますよね。
実際のところ、栄養素について深く考えずに「単にお肉やお魚を抜いただけ」なんて食生活をしてしまうと、栄養失調に陥るのは時間の問題かもしれません。
そんな危険と隣り合わせのヴィーガンやベジタリアンですが、基礎的な栄養学の知識さえ抑えておけば、栄養不足のリスクを下げることは可能です。
そこで今回は、健康的にベジタリアンやヴィーガンを実践するのに役立つ、最重要の7つの栄養素について、数々の栄養学関連の論文を深掘りしてみましょう。
目次
ヴィーガンやベジタリアンが不足しがちな栄養素
日本で一般的な食生活を送っていれば、必ずと言っていいほど献立に含まれるのがお肉やお魚、卵などの動物性食品。
そんな動物性の食べ物を一切口にしないヴィーガンなどの食生活について聞くと、「植物しか食べないなんて、絶対栄養が足りない」と感じるのも無理はないでしょう。
ですが、栄養学に関する文献を探ってみると、人間に必要な栄養素の中に「絶対に動物から摂取しなくてはならない栄養素は存在しない」という主張も見つけることができます(論文1, 論文2, 論文3, 論文4)。
少し言い方を変えると、普段お肉やお魚などの動物性食品から摂取している必須栄養素は、全て植物にも入っているという考え方ができるのです。
必須栄養素は全て植物からとれる!けど…
ヴィーガンやベジタリアンなどの健康メリットは別記事で詳しく解説していますが、植物中心の食生活は、正しく実践すれば健康改善に繋がる可能性も大いに秘めていると考えられています。
しかしながら、植物だけの食生活で健康になることが分かったからと言って、両手放しに安心してヴィーガンやベジタリアンを実践するのは危険が伴います。
従来の食生活から単純にお肉やお魚、卵や牛乳を抜いただけのような食生活では、必要な栄養素が十分に摂取できないことも確認されています。
また、私たちが食材を見た時に感じる「健康そう」というイメージや、マクロビオティックなどで「身体に良い」とされる食材も、栄養学的には誤った認識*であるケースも少なくありません。
※ 例えばマクロビでは、全ての食材は陰(いん)と陽(よう)の二つに分類され、マクロビにおける健康な食生活とは陰と陽をバランスよく食べることとされています。そこにはビタミンという言葉もタンパク質という言葉もなく、栄養学とは全く無関係の基準で食材が評価されます。
気づかぬうちに栄養失調に?
また、栄養失調など、栄養不足に起因する体調変化や健康障害の多くは、すぐに症状として現れることは少なく、長い時間をかけて徐々に身体に影響を与えるとも言われています。
注意を怠ったまま、長期間に渡ってヴィーガンやベジタリアンを実践すれば、徐々に身体がだるくなったり、肌の調子が悪くなったり、髪や爪が脆くなったりと、気づかぬうちに身体の不調が悪化する可能性もあります。
元の状態に戻すのが困難なほど重大な健康被害に繋がってしまわないよう、ヴィーガンやベジタリアンを実践する際には栄養不足に十分に気をつけましょう。
菜食主義の弱点と向き合う重要性
SNSやYouTubeなどで目にする「ヴィーガンですごく健康になりました!」といったポジティブな情報は、私たちに勇気や元気を与えてくれる大切な存在です。
ただ、そうしたインフルエンサーさんたちが発信する情報にばかり触れていると、「そんなに栄養に気をつけなくても大丈夫そうじゃん」と軽く考えてしまいがちです。
実際に筆者自身もヴィーガン初期の頃はそうでしたが、数年が経ち、実際に体調を崩した経験から、菜食主義で健康的に生きるために最も大切なのことは菜食の弱点を知ることだと考えるようになりました。
「どの栄養素を何から摂取できるか」を知る
菜食主義で不足しやすい栄養素は何なのか。そして、その栄養素を何の食べ物から摂取すれば良いのか。
個人の体質等によっても異なるため、当然ながら一概には言えませんが、菜食の弱点とそれをカバーする方法を知っている人と知らない人では、長期的な栄養不足のリスクは全く違うものになるかもしれません。
この記事は論文ベースで情報を整理したもので、ちょっと小難しい内容かとは思いますが、動物性食品ゼロでも身体に必要な栄養素をきちんと摂取するためのヒントが満載です。
菜食で注意すべき超重要栄養素
ではここからは、ヴィーガンやベジタリアンなど、植物だけの食生活を実践した場合に不足する危険性が高いと考えられる栄養素を見ていきます。
関連する論文を参照していくと、主に以下の7種類の栄養素が不足するリスクが高いことが見えてきます。
- タンパク質
- ビタミンB12
- カルシウム
- ビタミンD
- オメガ3脂肪酸
- 鉄分
- 亜鉛
ヴィーガンの栄養失調事例も実在?
この7種類の栄養素の共通点として、お肉などを含む従来の食生活(雑食)では動物性の食品から主に摂取している栄養素であることが挙げられます。
例えば、有名なカルシウム源は牛乳ですし、オメガ3脂肪酸は青魚。どちらも動物性ですよね。
そのため、ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義者が不足しやすい傾向にあり、実際に研究論文等でも摂取不足や栄養失調に関する報告が確認できる栄養素たちです。
- タンパク質不足を示唆する研究(論文5)
- ビタミンB12不足を示唆する研究(論文6)
- カルシウム不足を示唆する研究(論文5)
- ビタミンD不足を示唆する研究(論文4)
- オメガ3不足を示唆する研究(論文7)
- 鉄分不足を示唆する研究(論文8)
- 亜鉛不足を示唆する研究(論文9)
ということでここからは、この7つの栄養素がなぜ不足するのか、そして、ヴィーガンやベジタリアンはどんな食材から摂取すると良いのか、詳しくみていきましょう。
ヴィーガンやベジタリアンが注意すべき栄養素7選
タンパク質にビタミンB12、鉄分、亜鉛、オメガ3脂肪酸、カルシウム、ビタミンDの7種類と聞いて、「こんなにあるのか…」と落胆した方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ヴィーガンは癌、心筋梗塞などの循環器系疾患、糖尿病などのリスク低減や肥満解消につながる可能性も示唆される一方で(論文10, 論文11, 論文12, 論文13, 論文14, 論文15, 論文16, 論文17, 論文18, 論文19)、そうした恩恵を受ける前に栄養失調などで体調を崩してしまっては本末転倒です。
ヴィーガンやベジタリアンでも栄養不足のリスクを極力下げ、健康的な毎日を送るためにも、「無数にある栄養素のうちのたった7個」と言い聞かせて目を通しておきましょう。
タンパク質(必須アミノ酸)
まず、ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義で不足が懸念される代表的な栄養素にタンパク質があります。
既にヴィーガンやベジタリアン、フレキシタリアンなどの菜食主義を実践している方であれば、「タンパク質どこからとってるの?」という周囲からの質問にはもう飽き飽きしているかもしれません。
恐らく「いや、お豆があるやん」的な返答をすることが多いかと思いますが、お豆が優秀なタンパク源であることは間違ないものの、少し注意も必要です。
タンパク質は肌や爪、髪の毛などだけでなく、臓器なども構成している栄養素ですので、「豆製品さえ食べていれば大丈夫」などと軽視せずにチェックしておきましょう。
ヴィーガンのタンパク質食材一覧
お肉や魚、卵などには良質なタンパク質が豊富で、動物性食品が非常に優れたタンパク源であることは疑いの余地がありません。
ですが、動物性を全く口にしないヴィーガンでも、お豆やシード(種子)などをうまく食生活に取り入れれば、必要な量のタンパク質を摂取するのはそれほど難しいことではありません。
スーパーや食料品店でも買える一般的な食材に限定して、ヴィーガンのタンパク源トップ10をリストアップしてみました。
食材 | タンパク質 |
---|---|
ソイミート* | 59.3g |
かぼちゃの種 | 26.5g |
ピーナッツ | 25.4g |
ひまわりの種 | 20.1g |
アーモンド | 20.3g |
チアシード | 20.0g |
納豆 | 16.5g |
枝豆(茹で) | 11.5g |
高野豆腐(水煮) | 10.7g |
そら豆(茹で) | 10.5g |
含有量は100gあたりで、数値は全て日本食品標準成分表より。*は乾燥時の数値ですので、茹でる前の重量で計算してください。
豆やナッツ類に豊富なタンパク質
ヴィーガンでも食べられる食材の中では、特に以下の食品にタンパク質が多く含まれています。
- シード類:かぼちゃの種、チアシードなど
- ナッツ類:ピーナッツ、アーモンドなど
- 豆類:納豆、枝豆など
ヴィーガン食品の中でタンパク質含有量がダントツでトップなのが大豆ミート(ソイミート)で、なんと固形分の半分以上がタンパク質でできています*。
また、健康食品としての人気も高まりつつあるかぼちゃの種(パンプキンシード)が、シード類の中ではトップのタンパク含有量となっています。
ナッツ類では、美容にも良いとされるビタミンEなどが豊富なアーモンドなどにもたタンパク質は多く、リストに入れていませんが、カシューナッツも19.8gのタンパク質を含んでいます(成分表)。
※ 大豆ミートは茹でないと食べることができませんので、実際に「食べられる状態」の大豆ミートのタンパク質の含有率はこの数字よりも低くなります(水分を多く含むためです)。
リスト以外のタンパク質豊富な食材
上のリストにはありませんが、ドライトマトにも14g前後のタンパク質が含まれていて(成分表)、タンパク質が13gのゆで卵(成分表)よりもプロテイン豊富な食材です。
また、居酒屋などでも目にする茹で落花生には11.9gのタンパク質が含まれます(成分表)。
お豆腐はタンパク源として失格?
意外なところにもタンパク質豊富なヴィーガン食材がある一方で、一般的にタンパク質の宝庫とも考えられがちなお豆腐は、イメージするほどタンパク質が多くないことに注意が必要です。
例えば、木綿豆腐は100gあたりのタンパク質が7gで(成分表)、絹ごし豆腐にはたったの5.3gしか含まれていません(成分表)。
これは、お豆腐は基本的に8割以上が水分であることが理由で、決して「失格」などということはありませんが、お豆腐をメニューに入れる際にはこの数字も頭に入れておくと良いかもしれません。
不足しないためのタンパク質摂取量
タンパク質が不足すると、肌や髪の毛、爪などに悪影響を及ぼすだけでなく、免疫機能の低下等に繋がる可能性も示唆されている非常に大切な栄養素です(参考)。
ヴィーガンやベジタリアンでもしっかりと意識しておきたいところですが、では、一体どれくらいのタンパク質を食べれば良いのでしょうか。
厚生労働省は成人が1日あたりに摂取すべきタンパク質量を、以下のように推奨しています。
- 成人1日あたり50〜60gのタンパク質
※ 体重や日々の運動量、目的(体を大きくしたいか、絞りたいか等)によっても摂取目安は増減すると考えられています。
植物性のタンパクは質が悪いの?
厚生労働省の推奨値をクリアするには、上のリストにある豆類やシード類、ナッツ類を意識的に取り入れていれば、ヴィーガンでもよほどのことがない限り欠乏状態になる可能性は低いかと思います。
しかしながら、植物性の食材単体では「必須アミノ酸のどれか一つが欠けている不完全タンパク質」という特徴もあるため注意が必要です。
この問題の解決策として最も簡単なのが植物ブレンドのプロテインを摂取することですが、ここではプロテインサプリ等に頼らない解決方法もみておきましょう。
様々な食材からタンパク質をとれば解決
詳細は別記事で解説していますが、ヴィーガンが良質なタンパク質を摂取するための鍵は、「豆製品、ナッツ、シード、玄米など様々な食材からタンパク質をとること」です。
この摂取方法が効果的と言われる理由は、一つの食材だけ(例えば大豆だけ)では不足しがちな必須アミノ酸を別の食材で補うことができるためです。
多様な食材から満遍なくタンパク質を摂取することで、全9種類の必須アミノ酸バランスを整えることに繋がり、動物性タンパクに劣らない質の高いタンパク質摂取も可能になると考えられています。
手軽にタンパク質を高めるヴィーガンプロテイン
普段の食生活で様々なタンパク源を取り入れていれば問題ないかと思いますが、忙しい日々の中で、アミノ酸バランスまで配慮した食事はなかなか難しいかもしれません。
そんな時に便利なのが、複数の植物タンパクを複合したプロテインです。
下記のアノマ(ANOMA)はえんどう豆と玄米タンパクをブレンドしていて、上述した理想的なタンパク摂取方法をひとまとめにしたハイスペックなプロテインです。
アノマのプロテインは比較的溶けやすい上に甘さもあって飲みやすく、日本の会社であるところも安心材料です。
また、植物性プロテインは日本ではソイプロテイン(大豆)が主流ですが、私たち日本人の食生活には納豆やお豆腐など、大豆食品が多く含まれます。
えんどう豆と玄米の複合タイプであれば大豆の過剰摂取を防ぐ意味でも有効ですし、アミノ酸バランスを整えるためにも、普段の献立に頻繁に含まれない食材が原材料なのも嬉しいポイントです。
ビタミンB12(コバラミン)
最も気になる栄養素のタンパク質の次は、知名度としては比較的マイナーな存在でありながら、不足すると様々な健康被害にも繋がりかねない要注意な栄養素についてみていきます。
ヴィーガンやベジタリアンを実践する上で、気をつけるべき栄養素の代表格と言っても過言ではないのが、ビタミンB12(コバラミン)という名の栄養素です。
ビタミンB12は、有名なビタミンCと同じ水溶性ビタミンに当たるもので、私たち人間にとって欠かすことのできない栄養素です。
植物に「ほぼゼロ」なビタミンB12
ビタミンB郡にはB12以外にもB1、B2、B6、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンなどがありますが、この中で特に注意しなくてはならないのがB12と言われています。
ビタミンB12は細胞の代謝に欠かせない栄養素で、脳や神経の機能とも密接に関わる、私たち人間が生きる上で絶対に摂取しなくてはならない必須栄養素の一つに位置付けられています(参考)。
厚生労働省は、成人で1日あたり2.0〜2.5μg(マイクログラム)の摂取を推奨しているビタミンB12ですが、残念なことに、植物性の食材には基本的に全く含まれていない栄養素です。
ヴィーガンではサプリ必須な栄養素?
植物性の食品にはゼロの栄養素になるため、ヴィーガンやベジタリアンの不足が最も懸念されている栄養素で、菜食主義者にとってビタミンB12の重要性はタンパク質以上になります。
実際に研究を探ってみても、ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義者の間でビタミンB12不足が蔓延している状況も複数報告されています(論文6, 論文20, 論文21)。
また、ビタミンB12に限ってはサプリメントが必要不可欠だとする見解が、研究論文レベルでもいくつか存在しています(論文72, 論文73)。
ヴィーガンは土や川からビタミンB12を摂取?
ただし、「全く含まれない」と言っても、ビタミンB12は微生物(細菌)が生産しているビタミンで、そうした微生物が住む土や川の水などには存在していることが確認されています(参考)。
ですので、土がついたままのオーガニック野菜(土壌菌が殺菌されていないもの)などを食べたり、川の水を直接飲んだりすれば、サプリメントに頼らずともビタミンB12を摂取することが理論上は可能です(参考)。
しかしながら現代社会では、スーパーなどで買えるお野菜は綺麗に洗浄されたものばかりですし、慣行栽培で作られたお野菜だと、薬剤によって土壌菌が殺菌されていることも考えられます。
また、特別な地域に住んでいない限り毎日川に飲料水を取りに行くことも困難ですし、ヴィーガンとしてビタミンB12を摂取する現実的な方法が存在しないのが実情です。
海苔やクロレラ、スピルリナにB12が?
以前「海苔にはビタミンB12が含まれている」という認識が広まった時期もありましたが、最近の論文等をよく読んでみると、「B12は海苔に含まれてないこともないが、微量すぎて不十分」という見解が主流なようです(論文24)。
その他にも、藻類のクロレラやスピルリナ、玄米などのビタミンB12を検証した研究も存在します(論文22, 論文23, 論文24, 論文25, 論文26)。
ですが、これらの食品についても「量が少なすぎる」とか「B12の種類が違って吸収できない」などの理由で、栄養学的な有用性は残念ながら認められていないようです。
ニュートリショナルイーストが救世主となるか
そんな絶望的なヴィーガンのB12ですが、近年になって栄養素を人工的に強化したフォーティファイド・フード(Fortified Food)と呼ばれる食品が増え、ビタミンB12入りのヴィーガン食品も増加傾向にあります。
ヴィーガン向けのB12強化食品としては、ニュートリショナルイーストと呼ばれるチーズのような風味がするフレーク(粉)が代表格で、添加物としてビタミンB12が含まれています。
「これで解決!」と言いたいところですが、B12は光に弱いことなどから、栄養強化食品でも梱包状態や保管環境によっては、有効な栄養素が消えてしまう可能性も指摘されています(論文32)。
こうした実情などもあり、ヴィーガンにとって最も摂取が難しい栄養素と考えられています。
ビタミンB12不足で考えられる健康被害
これだけ摂取が難しいビタミンB12ですが、不足すると疲れやだるさ、貧血などだけでなく、脳や神経系の機能に支障が出るなど、様々な健康障害に繋がると考えられています(論文27, 論文28, 論文29)。
しかも大変厄介なことに、ビタミンB12は欠乏状態にあることに気づきにくい栄養素としても知られています。
これには「人間はビタミンB12を体内に蓄えておくことができる」という、一見するとありがたい私たちの身体機能が関係していると考えられています。
論文に書かれていることを読んでみると、仮にビタミンB12を今日から全く摂取しなくなったとしても、そこから「数年間、欠乏による悪影響が顕在化しないことがある」と示されています(論文30, 論文31)。
B12はサプリも要検討な必須栄養素
こうしたことからも、ビタミンB12に気を配っていないと、「見えないところで徐々に身体に悪影響を及ぼし、ある日突然身体に異変が」なんてことも考えられなくはないと思います。
実際に筆者の周りにも、ヴィーガン5年目で突如、ビタミンB12不足による神経疾患を発症してしまった方がいます(発症するまではあまり風邪も引かず、元気にしていました)。
「サプリには絶対反対」という思想に異議は唱えませんが、中長期的な健康のためにも、B12だけでもサプリメントの力を借りると安心かもしれません(もちろん動物性不使用で)。
イギリス発の有名栄養ブランド、マイプロテイン(My Protein)からもヴィーガン対応のビタミンB12が出ています。
また、普段お肉やお魚を食べていてもB12欠乏症のリスクは存在するようで、ヴィーガン以外が対象の研究でもビタミンB12サプリの必要性が語られることもあります(論文33)。
あまり聞き慣れないビタミンB12ですが、これを機に、菜食主義ではない方も目を向けてみてもいいかもしれません。
ビタミンB12に加え、後述する不足栄養素のオメガ3脂肪酸とビタミンDの3本セットもありますので、こちらに載せておきます。
カルシウム
タンパク質、そしてビタミンB12の次に、ヴィーガンやベジタリアンが不足に注意するべき栄養素はカルシウムです。
「カルシウムといえば牛乳」というイメージも強く、他にも、パッと思い浮かぶカルシウム源といえば煮干しなどのお魚とか、やはり動物性の食材が多い印象ですよね。
そのイメージ通り、カルシウム源として優秀な食材には動物性が多く、菜食主義は注意が必要な栄養素のひとつです。
ヴィーガンに不足しがちなカルシウム
ご存知の通り、カルシウムは骨の健康と密接に関わっていて、骨粗鬆症のリスク要因としてもカルシウム不足が第一に挙げられることが多いです(参考)。
また、骨の健康以外にも、カルシウムは細胞や筋肉の働きにも関与していると考えられていて、健康な毎日には欠かせない栄養素となっています(参考)。
そんな大切なカルシウムですが、厚生労働省は1日の摂取量を以下のように推奨しています。
- 1日あたり成人で650mg〜800mgのカルシウム
※ 年齢、性別等によって推奨量が異なりますので、詳しくは厚生労働省の情報をご確認ください。
ヴィーガンのカルシウム摂取は困難?
最低でも1日550mgと、微量栄養素(ビタミン、ミネラルなど)の中では比較的多くの摂取が推奨されているカルシウムですが、お魚や乳製品を口にしないヴィーガンは不足しやすい傾向にあるとされています(論文5, 論文34)。
ちなみに、優秀なカルシウム源の代表格である牛乳と煮干しのカルシウム含有量は、共に100gあたりで以下の数値になります。
※ 数値はいずれも日本食品標準成分表より
煮干しは最もカルシウム含有率の高い食品のひとつですし、牛乳は200mlの小さなパック(ストローで飲むタイプ)でも、220mg以上のカルシウムが含まれていることになります。
牛乳以上?なヴィーガンのカルシウム食材
ですが、実はこのカルシウム、ビタミンB12とは違い植物性の食品にも豊富に含まれる栄養素です。
もちろん乳製品を口にしないヴィーガンは特に注意が必要ですが、どの植物性食材にカルシウムが含まれているかを把握し、意識的にそれらの高カルシウム食材を取り入れれば、一日の推奨量に達することも難しくないと言えるでしょう。
そこで以下では、スーパーなど、比較的身近に購入できる食材に限定して、ヴィーガンのカルシウム源トップ10を表にしてみます。
食材 | カルシウム |
---|---|
ごま(炒り) | 1,200mg |
チアシード | 570mg |
焼きのり | 280mg |
アーモンド | 260mg |
大根の葉(茹で) | 220mg |
ケール* | 220mg |
小松菜(茹で) | 150mg |
木綿豆腐/高野豆腐(水煮) | 150mg |
わかめ(水戻し) | 140mg |
ひじき(茹で) | 96mg |
含有量は100gあたりで、数値は全て日本食品標準成分表より。*は生の状態の数値で、茹でたり炒めたりするとカルシウムが10%〜30%程度、場合によってはそれ以上減少する場合があります。
ゴマや葉物、海藻に豊富なカルシウム
ヴィーガンでも食べれる食材の中では、特に以下の食材にカルシウムが多く含まれています。
- シード類:特にゴマやチアシード
- 海藻類:海苔やワカメなど
- 緑黄色野菜:大根の葉、小松菜など
ヴィーガン食材の中で飛び抜けてカルシウムが多いのがゴマで、重量の10%程度がカルシウムとなっています。
他にも海苔などの海藻類だけでなく、意外にも小松菜などの緑黄色野菜にも豊富で、高野豆腐などの大豆食品、アーモンドなどにもカルシウムが含まれています。
緑黄色野菜は特にカルシウムのイメージが薄いですが、リスト以外にもカブの葉に190mg(成分表)、ほうれん草に170mg(成分表)、チンゲンサイに120mg(成分表)など、菜食主義者にとっては嬉しいカルシウム源です。
※ いずれも茹で時100gあたり
ゴマなどのシード類は殻付きで
ちなみに、カルシウム含有量がトップのゴマですが、カルシウムは主にゴマの殻の部分に含まれていることが知られています。
殻が取り除かれた「むきゴマ」などもスーパーなどで見かけますが、殻なしのゴマはカルシウム含有量が大幅に低くなりますので選ぶ際にはチェックしましょう(“成分表)。
また、殻付きを選ぶことは大切ですが、硬い殻は消化吸収が悪いという特徴もありますので、すりゴマにするなどして消化しやすくすると良いかもしれません。
カルシウム不足の健康被害は?
上記したシードや葉物野菜、海藻類などを意識的に取り入れていれば、ヴィーガンでもカルシウムが不足してしまう可能性はそれほど高くないかと思います。
ですが、カルシウム不足は骨粗鬆症リスクの増加に繋がるなど、重大な健康への悪影響も考えられるため、決して軽視してはいけない栄養素のひとつです。
そこで、ヴィーガンでもカルシウム不足に陥らないために、筆者が実践しているカルシウムちょい足し法にも触れておきます。
シードを有効活用してカルシウム補給
誰もが思いつくことかもしれませんが、筆者は普段の食事にゴマやチアシードなどのシード類をふりかけたりして、カルシウム補給を心がけています。
例えば、大さじ一杯(約9g)のゴマをサラダにふりかけるとすると、それだけで100mg以上*のカルシウム補給になります。
他にも、朝のスムージーにチアシードを10gほど加えれば、約60mg*のカルシウムを追加で摂取できることになります。
※ 成分表を元にした計算値であり、実際にこの量が体内で吸収できるとは限りません。また、ゴマの殻は硬く胃で消化されにくいので、潰して食べると吸収率が高まります。
このように、カルシウムが豊富なヴィーガン食材を頭に入れてお口ことで、気づいた時にサッと追加できるため、多忙な日々でもカルシウムはサプリに頼らずに摂取したいところですね。
ビタミンD
次は、カルシウムの吸収等にも欠かせない重要な栄養素である脂溶性ビタミン、ビタミンDについて見ていきます(論文35)。
このビタミンDは、2020年中旬頃からコロナウイルスに対する免疫を高める可能性があるとして、世界中で議論の的となっている栄養素です(参考)。
コロナの予防については、現在も十分な医学的根拠は示されていませんが、コロナ禍において、ビタミンDが健康に欠かせない栄養素として再認識されています(参考)。
ヴィーガンが不足しやすいビタミンD
カルシウムの吸収を助ける役割だけでなく、免疫機能にも関係しているとされるビタミンDですが、ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義者が不足しやすい栄養素だと考えられています(論文4)。
また、お肉やお魚などを普段から食べている雑食者であっても、多くの人が不足していると示す研究もあります(論文36, 論文37)。
動物性の食品を食べる、食べないに関わらず、ビタミンDは現代人の多くが不足しがちであることから、最も気をつけるべき栄養素のひとつに挙げられます。
日光浴でもビタミンDは生成される、が…
厚生労働省によると、1日あたり成人で以下の量のビタミンD摂取が推奨されています。
- 1日あたり成人で5.5μgのビタミンD
摂取基準がある一方で、ビタミンDは直射日光など、お日様に当たることで体内で生成できるビタミンであるため(参考)、「食べ物からとらなくても大丈夫」とも思われがちですが、少し注意が必要です。
1日に15分ほど太陽光に当たると良いとされるビタミンD補給ですが、「腕や脚、お腹など肌の大部分を露出した状態」などの条件が書かれていたりします(参考)。
現代人はビタミンDを食事から
さらに、窓越しで太陽に当たってもビタミンDは生成されないとも言われ、当然ながら、日焼け止めを塗ったり、服を着た状態でお日様を浴びても十分なビタミンDは生成されないと考えられています(参考)。
私たち現代人の生活では、家やオフィスなど屋内にいる時間も長く、屋外にいるときも肌の多くは洋服で隠れていますし、日差しの強い時には日焼け止めも使用しますよね。
こうした生活様式の中では、十分なビタミンDを体内で生成することはあまり期待できないため、普段の食事からもビタミンDを摂取することが推奨されています。
ヴィーガン向けビタミンD食材
普段の食事であまり意識することのないビタミンDですが、動物性ではシャケに33μg(成分表)、イワシに32μg(成分表)など、魚介類を中心にビタミンDが豊富です。
「もしや、ビタミンDは植物に入っていないの?」と心配になった方もいるかもしれませんが、ヴィーガンが口にできる食材でもビタミンDは含まれています。
以下に、ビタミンDが豊富なヴィーガン食材のトップ10をリストアップしてみました。
食材 | ビタミンD |
---|---|
キクラゲ(茹で) | 8.8μg |
舞茸(油炒め) | 7.7μg |
エリンギ(焼き) | 3.1μg |
本シメジ(茹で) | 1.2μg |
白キクラゲ(茹で) | 1.2μg |
ブナシメジ(茹で) | 0.9μg |
エノキ(茹で) | 0.8μg |
マッシュルーム(油炒め) | 0.8μg |
ヒラタケ(茹で) | 0.5μg |
シイタケ(茹で) | 0.5μg |
含有量は100gあたりで、数値は全て日本食品標準成分表より。
ヴィーガンのビタミンDはきのこだけ
リストを見て「あれ?」と感じた方もいるかと思いますが、ヴィーガンのビタミンD食材は、基本的にキノコ類だけになります。
きのこ以外でも最近は、ビタミンDを添加した、ヴィーガン向けの栄養強化食品もちらほら見かけるようになりましたが、ナチュラルには基本キノコ類一択です。
日頃から日光にあたることに加えて、ビタミンD源としてきのこ類を献立に加えるよう意識すると良いでしょう。
ビタミンD不足での健康被害は?
ビタミンDが不足していると、カルシウムの吸収が悪くなるだけでなく、免疫機能の低下、さらには鬱などにも繋がる可能性も指摘されています(論文38, 論文39, 論文40, 論文41)。
日頃どれくらい日光に当たっているかも意識してみて、足りていなさそうであれば、生活スタイルに合わせてサプリなどを有効活用しても良いかもしれません。
きのこ類が苦手な方はもちろん、リモートワークで屋内にいる時間が増えた方など、手軽なビタミンD補給に便利です。
また、ヴィーガンでサプリが必須とも言えるビタミンB12とオメガ3脂肪酸とのセットもありますので、ご参考までに。
オメガ3脂肪酸(DHA&EPA)
「オメガ3脂肪酸が大事」ということはどこかで耳にしたことがある方も多いはず。
この栄養素も、ヴィーガン実践者での摂取不足が懸念されるもののひとつです(論文7)。
オメガ3脂肪酸は脳の正常な働きに欠かせない不飽和脂肪酸の一種で、DHAやEPA、ω-3脂肪酸やn-3系脂肪酸などと表記されることもあります。
この栄養素が豊富な食材としては、なんと言っても青魚などが有名かと思います。
3種類に分けられるオメガ3脂肪酸
ヴィーガンなど、お魚を食べない菜食主義では不足しがちなオメガ3脂肪酸ですが、植物にも含まれる栄養素です。
ただ、お魚に含まれるものと植物に含まれるものではタイプが異なり、吸収率にも違いがあるため注意が必要になります。
オメガ3脂肪酸は主に以下の3種類に分けられ、植物にはこのうち一種類だけが含まれています。
- DHA(ドコサヘキサエン酸):動物性
- EPA(エイコサペンタエン酸):動物性
- ALA(αリノレン酸):植物性
サプリメントのCMなどでは「DHAとEPA」をよく聞くかと思いますが、植物性の食品には3つ目のαリノレン酸(ALA)しか含まれていません。
必須なのはαリノレン酸(ALA)だけ
1種類のオメガ3脂肪酸しか含まない植物ですが、必須脂肪酸と呼ばれるのはこのうちαリノレン酸(ALA)だけで、植物にも含まれます。
なので、このことをストレートに捉えると、理論上は「ALAだけ摂取すれば、DHAもEPAも要らない」と言うことができます。
ちなみに、なぜDHAとEPAは必須ではないかと言うと、私たちの体内でALAをDHAとEPAに変換することができるためです(論文42)。
ただ、これで安心してしまうのはちょっと危険で、ALAからの変換率の低さに注意する必要があります。
※ 体内ではDHAとEPAの形でしか利用できないため、摂取したALAは必ずDHAとEPAへ変換する必要があります。
変換率が低いαリノレン酸(ALA)
植物だけでも摂取可能なオメガ3脂肪酸ですが、ヴィーガンなどの食生活において必ず意識しなくてはならないのが、ALAのDHAとEPAへの変換率です。
年齢や体質でも異なるため一概には言えませんが、ALAからDHAとEPAへの変換率は、一般的には以下のように考えられています。
- DHA:ALAの0.5%〜5%
- EPA:ALAの5%〜10%
言い方を変えると、例えばαリノレン酸を10g摂取しても、体内で利用できるDHAとEPAは以下の数値まで少なくなってしまうのです。
- DHA:0.05g〜0.5g
- EPA:0.5g〜1.0g
要するに、「オメガ3脂肪酸を10g摂取できた」と思っていても「実際に体内で使えるのは1g程度」ということになり、この変換率の悪さが頭にないと、菜食主義ではオメガ3脂肪酸不足に陥る可能性が非常に高くなってしまいます。
ヴィーガンは10倍のオメガ3脂肪酸が必要?
厚生労働省によると、日本人は成人で、1日あたり以下の量のオメガ3脂肪酸の摂取が推奨されています。
- 1日あたり1.6g〜2.4gのオメガ3脂肪酸
この数値だけではそれほど難しそうに感じませんが、厚生労働省には菜食主義者向けの摂取基準などはなく、当然お魚などからDHAとEPAを摂取できる一般的な食生活を想定していると考えられます。
菜食主義者はALAしか摂取できない食生活であるため、10倍とまではいかずとも、上述した変換率の悪さも考慮する必要があると考えて良いと思われます。
※ 変換率には個人差があると考えられており、1日あたり推奨量も研究によって幅があるため一概には言えません(論文46, 論文47, 論文48)。
ヴィーガンのオメガ3脂肪酸食材10選
多めの摂取が鍵と考えられるヴィーガンのオメガ3脂肪酸ですが、植物だけでも必要な量を摂取することはもちろん不可能ではありません。
ここで、オメガ3脂肪酸を多く含むヴィーガン食材トップ10を一覧で確認してみましょう。
食材 | オメガ3脂肪酸 |
---|---|
えごま油 | 58g |
亜麻仁油(アマニ油) | 57g |
ヘンプシードオイル | 22g |
亜麻仁(炒り) | 24g |
チアシード | 19g |
クルミ(炒り) | 9g |
マスタードシードオイル | 5.9g |
油揚げ | 2.3g |
湯葉(生) | 0.9g |
テンペ | 0.7g |
含有量は100gあたりで、数値は日本食品標準成分表、USDA FoodData Central及び論文より。
シードオイルに豊富なオメガ3脂肪酸
ヴィーガン向け食材では、主に以下の食品群にオメガ3脂肪酸が多く含まれています。
- シードオイル:えごま油、アマニ油など
- シード類:アマニ、チアシードなど
健康効果も話題のえごまオイルやアマニオイルが含有量トップで、ヘンプシードやマスタードシードなど、マイナーな食材もオメガ3脂肪酸のALAが豊富です。
また、ナッツではクルミにも含まれ、大豆製品にも少量ですが含まれています。
オイルのちょい足しでオメガ3補給
変換率が非常に悪い植物性のオメガ3脂肪酸ですので、ナッツやシードを食べてコツコツ摂取しても、なかなか必要量に達しない可能性もあります。
一方で、えごま油やアマニ油などのシードオイルは半分以上がαリノレン酸という高濃度ぶりですので、これらをいろんな食べ物にちょい足しするのがオススメです。
例えば、えごま油を大さじ一杯(12g)、いつものサラダやパンにかけるとすると、それだけで約7gのALA摂取になります(成分表)。
当然変換率が低いため、実際に使えるDHAとEPAは0.7g程度かもしれませんが、お魚を食べない菜食主義者にとっては大変ありがたい存在です。
オメガ3脂肪酸不足での健康被害は?
オメガ3脂肪酸は脳の正常な働きや発達に欠かせないだけでなく、炎症や免疫、更にはうつ病や乳癌との関係性も示唆されている栄養素です(論文49, 論文50, 論文51, 論文52, 論文53, 論文54)。
非常に重要な栄養素ですが、ヴィーガンの栄養学が浸透しているアメリカであっても、菜食主義者の半数近くがオメガ3脂肪酸不足だとする研究が出ていたりもします(論文7)。
上述の変換工程等も踏まえて「オメガ3は自分が思っているほど吸収できてない」と考え、日々の食事から積極的な摂取を心がけると安心かと思います。
最も確実なオメガ3摂取方法は…
ただ、シードオイルには独特な風味があったり、「なんでもかんでも油やシードをかけるのはちょっと…」なんて方も当然いらっしゃいます。
また、実際の体内の変換率も知ることは困難ですので、植物性ながら既にEPAとDHAに変換済みの、吸収効率の高いサプリメントも参考までにご紹介します。
これまでにもお伝えしてきたビタミンB12とビタミンDとのセットもありますので、ライフスタイルに合わせて検討してみても良いかもしれません。
鉄分
「なんか疲れるなぁ」とか「ちょっとフラフラするなぁ」なんて感じるとき、「貧血気味じゃない?」と聞かれることも多いのではないでしょうか。
「貧血対策にはなんと言っても鉄分」というのはみなさんご存知かと思いますが、鉄分は、新しいDNAや赤血球を作り出したり、血液中の酸素を運んだりする役目のあるとても重要な栄養素と考えられています(参考)。
ヴィーガンは鉄分不足になりがち?
菜食主義者であるかないかに関わらず大切な栄養素の鉄分ですが、ヴィーガンはより貧血に陥りやすい傾向にあると考えられていて、通常よりも一層鉄分摂取に気を配る必要があります(論文8, 論文55)。
この背景には、動物性と植物性の食品で、含まれる鉄分の種類が異なることが関係しています(論文56)。
植物に含まれるのは非ヘム鉄
オメガ3脂肪酸も、動物性にはDHAとEPA、植物性にはALAという違いがありましたが、鉄分も同様に、動物性と植物性で2つに分類することができます。
- ヘム鉄:動物性
- 非ヘム鉄:植物性
お肉やレバーなどに含まれる鉄分は「ヘム鉄」と呼ばれ、この種類の鉄分は動物性の食品のみに含まれています(参考)。
一方で、植物性の食品に含まれる鉄分は全て非ヘム鉄という種類で、動物性のヘム鉄とは吸収率が異なる特性があります(論文56)。
植物性の鉄分は吸収されにくい
どちらも身体に必要な鉄分であることに変わりはないのですが、植物性の非ヘム鉄は動物性のヘム鉄よりも吸収が悪いことが確認されています(論文57)。
また、植物性の食品には鉄分の吸収を妨げるとされるフィチン酸などの成分も含まれています。
こうしたことから、植物中心の食生活では「通常の1.8倍の鉄分を摂取すべき」とする論文も出ていて、ヴィーガンが特に意識すべき栄養素の一つに挙げられます(論文58)。
※ フィチン酸は俗に植物毒などとも言われることもありますが、毒ではありません。
ヴィーガン向け高鉄分食材10選
厚生労働省は、成人1日あたりで以下の鉄分摂取を推奨しています。
- 1日あたり成人で7.0mg〜10.5mgの鉄分
ヴィーガンなどの菜食主義者は、これだけの鉄分をどのような食材から摂取すれば良いのか、一覧でチェックしてみます。
※ 妊娠中は上記の数値にプラス15mgの摂取が推奨されるなど、性別や年齢、状況により異なる目安が設置されています。詳しくは厚生労働省の発表を確認してみてください。
食材 | 鉄分 |
---|---|
亜麻仁(炒り) | 9.0mg |
チアシード | 7.6mg |
カシューナッツ | 4.8mg |
レンズまめ(茹で) | 4.3mg |
アーモンド | 3.7mg |
納豆 | 3.3mg |
ひじき(茹で) | 2.7mg |
枝豆(茹で) | 2.5mg |
大根の葉(茹で) | 2.2mg |
水菜(生) | 2.1mg |
含有量は100gあたりで、数値は全て日本食品標準成分表より。
ナッツやシード、葉物類にも豊富な鉄分
ヴィーガンが食べられる食材では、主に以下の食品群に鉄分が豊富です。
- シード類:アマニ、チアシードなど
- ナッツ類:カシューナッツ、アーモンドなど
- 豆類:レンズ豆、納豆など
- 葉物類:大根の葉、水菜など
アマニやカシューナッツなどの種実類、レンズ豆などの豆類に多く、さらに、ひじきなどの海藻類や水菜などの緑黄色野菜にも鉄分が入っています。
リスト以外にも、緑黄色野菜(葉物野菜)では以下の食材にも鉄分が含まれます。
※ いずれも100gあたり。
吸収の悪さを加味して多めに摂取
リストを見れば分かるとおり、植物だけから十分な鉄分を摂取することはそれほど難しいことではありません。
しかしながら、吸収の悪い非ヘム鉄の特徴も踏まえ、ヴィーガンの方は厚生労働省の目安よりも少し多めを意識しても良いかもしれません。
ビタミンCとも同時摂取で吸収力アップ
動物性のヘム鉄よりも吸収しにくい非ヘム鉄ですが、ビタミンCと一緒に摂取すると吸収率が上がることも研究で確認されています(論文59)。
もちろん体質等によっても吸収率は異なりますが、ビタミンCによって鉄分の吸収率が67%も向上したとする論文があったりもします(論文60)。
ビタミンCは、パプリカやブロッコリー、ゴーヤなどの野菜類、キウイやいちご、柿などの果物に豊富な栄養素です。
鉄分の吸収効率を高めるためにも、これらの食材も意識して一緒に摂取すると良いかもしれませんね。
鉄分不足による健康被害は?
鉄分が不足すると貧血やだるさのみならず、頭痛、さらには免疫機能の低下などにもつながる可能性があると考えられています(論文61, 論文62, 論文63)。
普段から貧血気味の方や、「鉄分不足かな…」と感じる方は、リストにある食品群から意識的に鉄分を摂取し、同時に吸収を高めるビタミンCも摂取してみてはいかがでしょうか。
My Proteinからは「鉄分×葉酸」のタブレットも出ていますので、ご参考までに。
亜鉛
さて、ついに7つ目の栄養素までやってきました。
最後にチェックするのは、人間の体内で鉄分に次いで2番目に多いミネラルの亜鉛です。
亜鉛は代謝や免疫機能、細胞の修復などにも欠かせない栄養素と考えられていて、食品から摂取する必要のある必須ミネラルです(論文65)。
この亜鉛も、ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義者が不足しがちな栄養素のひとつに挙げられます(論文9, 論文64)。
ヴィーガンは亜鉛不足になりやすい?
厚生労働省は、1日あたり成人で以下の量の亜鉛摂取を推奨しています。
- 1日あたり成人で7mg〜10mgの亜鉛
「亜鉛といえば牡蠣」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、そのイメージの通り、貝や肉など動物性食品に豊富な栄養素です。
※ 性別、年齢によっても亜鉛の摂取量目安は異なりますので、詳細は厚生労働省のサイトを確認してください。
植物性は亜鉛の吸収が悪くなる?
植物性食品であっても亜鉛は含まれていますが、上記の鉄分同様、植物が持つフィチン酸の影響でヴィーガンなどは亜鉛の吸収効率が下がることが研究で示されています(論文66)。
こうした吸収の悪さが菜食主義者が亜鉛不足に陥りやすい背景にあり、ベジタリアンやヴィーガンは通常の1.5倍の亜鉛摂取が必要とする見解も存在します(論文67)。
亜鉛を含むヴィーガン食品
こうした理由から、ヴィーガンが亜鉛不足を防ぐには、通常の食生活を送る人以上に亜鉛摂取に気を付ける必要があると言えます。
ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義者が、どんな食べ物から亜鉛の摂取が可能か、亜鉛含有量の多い植物性食材をリストで確認しておきましょう。
食材 | 亜鉛 |
---|---|
かぼちゃの種 | 7.7mg |
ゴマ(炒り) | 5.9mg |
ひまわりの種 | 5.0mg |
レンズ豆(茹で) | 2.5mg |
ピスタチオ | 2.5mg |
オートミール | 2.1mg |
そら豆(茹で) | 1.9mg |
ヒラタケ(茹で) | 1.4mg |
たけのこ(茹で) | 1.3mg |
玄米(炊き) | 0.8mg |
含有量は100gあたりで、数値は全て日本食品標準成分表より。
シードや豆類に豊富な亜鉛
ヴィーガンも食べられる物の中では、主に以下の食材に亜鉛が多く含まれています。
- シード類:かぼちゃの種、ゴマなど
- 豆類:レンズ豆、そら豆など
- 穀物:オートミール、玄米など
はかぼちゃの種などの種実類や、レンズ豆などの豆類が特に亜鉛豊富な食材ですが、オートミールや玄米などの穀類も亜鉛を含んだ食品です。
さらに、含有量は多くないものの、ヒラタケやたけのこなどからも亜鉛を摂取することが可能です。
亜鉛不足による健康被害は?
亜鉛は代謝や免疫機能とも深く結びつく栄養素なため、不足が続くと疲れやだるさを感じたり、肌荒れを起こしたり、風邪をひきやすくなるなどの悪影響を及ぼす可能性が考えられています(論文68, 論文69)。
また、亜鉛は幅広い身体機能に関わっていると考えられ、亜鉛不足で「嗅覚や味覚が鈍感になる」とした研究があったりもします(論文70)。
植物性食品の性質上、ヴィーガンは通常よりも多めの摂取が必要とも考えられますので、豆やシード、ナッツや穀物などを通して十分な亜鉛を補えるよう心がけましょう。
マイプロテインからは、亜鉛に加え、マグネシウムとビタミンB6を配合したマルチサプリも出ていますので、手軽に亜鉛補給をしたい方は検討してみても良いかもしれません。
結局ヴィーガンは危険で不健康なの?
当事者たちからは、「健康になった」「癌になりにくい」「長生きできる」など、メリットばかりが聞こえてくる印象もあるヴィーガンなどの菜食主義。
一方で、「身体に悪い」「栄養失調だ」「早死にする」など、危険性を訴える反対派の声も大きく、どちらが真実かの判断は非常に難しいと思います。
アンチヴィーガンには影響力のある方も多く、その一人は皆さんご存知、ホリエモンさんこと堀江貴文さんです。
ヴィーガンとかまじ健康に悪いと思うよ。そして、うまい肉をたらふく食べるのが最高よ。劣悪な環境でそだった肉はマズイからね。
世界で進む「肉食離れ」、ミレニアル世代がけん引 (Forbes Japan) – https://t.co/kDstXIkAdB— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) April 2, 2018
ヴィーガン男子ことダンテさんとの論争も、見ていて心が痛んだヴィーガン当事者の方も少なくないのではないでしょうか。
ヴィーガンが健康か、不健康かの真相
議論が絶えない「ヴィーガンは健康的?それとも不健康?」というテーマですが、結論は「やり方次第」としか言えないのが現状です。
菜食が肥満や糖尿病の予防・解消等に繋がるだけでなく、日本人の死因トップ3のガン、心疾患、脳血管疾患のリスク低減にも寄与する可能性を秘めた食生活であることは、研究でも示唆されています(論文10, 論文11, 論文12, 論文13, 論文14, 論文15, 論文16, 論文17, 論文18, 論文19)。
しかしながら一方で、アンチ(反対派)の主張にも正しい側面があり、植物だけの食生活では、上述したような栄養失調に陥るリスクが雑食よりも高いことも事実です。
ヴィーガンの定義も人それぞれ
また、菜食主義の定義がとても広く、一口にヴィーガンやベジタリアンと言っても様々な食生活が当てはまることも、やり方次第と言わざるを得ない理由の一つです。
とても極端な話ですが、例えばフライドポテトやポテチを朝から晩まで毎日食べていたって、ヴィーガンと呼ぶことができます。
また、いくら「ナッツは健康に良い」と言っても、ナッツだけを毎日1kgとか食べ続けていたら、当然カロリー過多で太るでしょうし栄養に偏りもでるでしょう。
ヴィーガンでも病気のリスクは上がり得る
一般的に循環器系疾患のリスクが低いと言われるヴィーガンですが、偏った食生活をすれば、普通よりも心疾患リスクが高まるとした研究もあります(論文71)。
さらに、私たちの健康状態に食事が重要なのは言うまでもありませんが、食事以外にも睡眠時間や運動頻度、精神的ストレス、さらには遺伝など、様々な要素が関わるものです。
こうしたことを踏まえれば、ヴィーガンが健康か不健康かの答えは、出せなくて当然のことかもしれません。
「いかにヴィーガンを実践するか」次第
当たり前のことかもしれませんが、どんな食生活でも(なにタリアンでもパレオでも糖質制限でも、そして普通の雑食でも)、やり方次第で健康にもなり、不健康にもなるものです。
ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義は、健康のための大きなポテンシャルを秘めた食生活ですが、同時にこの記事で触れた7つの栄養素が不足しないか、注意も必要です。
栄養学的弱点と向き合う大切さ
せっかく強い信念を持ってヴィーガンをはじめても、数ヶ月、もしくは数年で「元気が出なくなった」などの理由で辞めてしまうケースも少なくありません。
既にヴィーガンやベジタリアンをされている方も、これからはじめてみたいと考えている方も、一度、この記事にあるような菜食主義の弱点と向き合ってみても良いのではないでしょうか。
みなさんが持つ素敵な信念や思いを貫き、みなさん一人一人が考える「より良い世の中」に近づけるために。
菜食主義を実践し、実際に体調を崩した経験のある筆者が感じ、学んだこと。少しでも参考になれば幸いです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、ヴィーガンやベジタリアンを実践するなら必読な、必須栄養素7選をお届けしました。
健康な菜食生活を送るために欠かせないこれらの栄養素ですので、最後にもう一度リストで確認しておきましょう。
- タンパク質
- ビタミンB12
- カルシウム
- ビタミンD
- オメガ3脂肪酸
- 鉄分
- 亜鉛