欧米を中心とした海外はもちろん、日本でも話題のヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義。
日本では本格的にヴィーガンやベジタリアンを実践している人に会う機会は少ないかもしれませんが、海外では菜食実践者の人口増加が急速に進んでいます。
特にアメリカでは、ここ数年間でビーガン人口が6倍に増えたとする試算もあり、ニューヨークやロサンゼルスなどの都市部では、多くのレストランに菜食主義者向けメニューが導入されています。
今回は、そんな話題の食生活、ヴィーガンやベジタリアンの世界トレンドを、数字を元に紐解いてみたいと思います。
目次
欧米を中心に増加中の菜食
日本でも耳にすることが増えたヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義者は、近年世界中で急速に増加傾向にあります。
特に欧米の先進国では菜食の人口増加が顕著で、菜食料理専門のレストランや、スーパーの菜食専用コーナなど、日本では想像できないほど様々な場所で見かけることができます。
ビーガン人口500%増のアメリカ
特に菜食実践者の人口増加が著しいのが、アメリカ合衆国です。
日本では”アメリカ発”的なイメージもあるビーガンやベジタリアンですが、2009年の時点でビーガンを実践している人は、アメリカ全土でたった1%程度しかいませんでした。
それが2013年の時点では2.5%に、2017年には6%まで増加し、人数にすると2,000万人近くのヴィーガン人口がいると推定されています。
特に若年層での増加が顕著
ビーガンやベジタリアンは特に若い世代に多く、アメリカでは菜食実践者の約半数が35歳未満です。
また、国民の30%が「肉の消費を減らした野菜中心の食生活の方が良い」と考えているというデータもあり、今後も数年間は、今の勢いそのままに増加が続いていくことが予測されています。
世界一のビーガンの街、ベルリン
ドイツでは、全人口の約10%がベジタリアンもしくはビーガンで、世界でも菜食人口割合はトップレベルです。首都ベルリンではさらに多く、15%前後と推定されています。
もともと菜食実践者の多いドイツですが、2008年頃から菜食対応をする飲食店も増え、ベルリンでは新たに60店舗近くのビーガン・ベジタリアン専門レストランがオープンしています。
ベルリンでは、その他にも公表されているだけで400近い飲食店が菜食メニューを導入していて、「ビーガンが世界一住みやすい街」ランキングでも常にトップに君臨しています。
肉消費を減らす社会的な流れ
また、ビーガンやベジタリアンのようないささか極端な食生活は実施せずとも、「動物性食品の摂取を減らすことが健康に繋がる」ということが一般常識としてドイツで浸透しつつあります。
2017年の調査では、ドイツ人の44%が肉の摂取を意識的に控えた食生活(Low-meat diet)を実践している結果が出ていて、2014年の26%から大きく増加しています。
イギリスでも3.6倍に増加
イギリスでは、2017年現在のベジタリアン人口は全体の約3%、ビーガン人口は1%台とそれほど多くありませんが、2012年からの5年間で3.6倍増加し、現在は約54万人が菜食を実践しています。
また、ポール・マッカートニーが提唱する「ミートフリー・マンデー」キャンペーンなどの影響もあり、ビーガン・ベジタリアンとまではいかずとも、日常の食生活に菜食を頻繁に取り入れるイギリス人は増加しています(フレキシタリアンについて)。
首都ロンドンには80店舗近くのビーガン専門レストランがあり、数字以上に菜食が浸透している街と言えるでしょう。
10人に1人が菜食主義のイタリア
ドイツとイギリスに加え、ヨーロッパではイタリアにも菜食人口が多く、イタリア人の約10%がビーガンまたはベジタリアンです。
同国トリノ市では2016年、市長が肉消費縮小に向けたアジェンダ(Meat-reduction agenda)を提唱するなど、ベジタリアンやビーガンが政府レベルでも推進され始めています。
14%が菜食主義のスイス
また、全体の人口は少ないですが、スイスも菜食人口の割合が大きい国です。
ビーガンとベジタリアンを合わせた菜食人口は14%で、ヨーロッパでも特に多い地域となっています。
オーストラリアでも市場拡大
オージービーフなど、お肉のイメージも強いオーストラリアですが、菜食人口は約11%と意外と多いです。
また、オーストラリア国内でのビーガン・ベジタリアン関連食品の売り上げは、2014年から2016年の間で92%アップし、2年間で倍近い市場に成長しています。
世界共通で若い世代、都市部で増加
アメリカ同様、ヨーロッパ各国やオーストラリアにおいても菜食人口は若い世代に多く、菜食実践者の約半数は35歳未満です。
また、どの国においても菜食を実践する人は都市部に集中する傾向にあります。
菜食が増える背景
世界各国で菜食人口は急増中ですが、海外からの観光客が今後益々増加する日本でも、飲食店等ではこの客層への対応が当たり前のように求められるようになっていくでしょう。
世界的流行とも呼べるビーガンやベジタリアンですが、なぜこんなに菜食実践の人が急増したのか疑問に感じる方も多いと思います。
ここでは、流行の裏側を簡単にお伝えします。
食生活の見直しが急務だった欧米
アメリカなどの欧米諸国を中心に菜食人口が爆発的に増加したのには、それらの国々が健康上の深刻な問題を抱えていることが背景にあります。
身近な健康問題としては肥満が最も有名ですが、アメリカやイギリス、オーストラリアなどの国では肥満は深刻な社会問題で、アメリカでは今や3人に1人以上が肥満です。
様々な疾患の原因となる肉食
アメリカをはじめとする欧米諸国では糖尿病人口も増加していますが、2型糖尿病などの慢性疾患に動物性食品の摂取が深く関係していることも近年大きく取り上げられています。
また、肉や卵などの動物性食品の摂取により心疾患のリスクが高まることも確実視されていますが、菜食人口が大きく増加した国々での死因の第一位は心疾患です(※日本ではガンが死因トップ)。
健康のためのビーガン実施が6割以上
ビーガンやベジタリアンの60%以上が”健康のため”という動機で実践していますが、上記のような病気のリスク低減や治療策として、動物性食品を除くことが効果的であると注目を集めています。
食生活による健康問題が浮き彫りになっている欧米社会において、菜食の効果が医学的にも認められるようになったことが、近年の菜食実践者増加に大きく寄与していると考えられます。
環境問題への関心の高まり
欧米諸国における環境問題に対する関心の高まりも、菜食実践者の急増を後押ししています。
日本では”食と環境”と言われてもピンと来ないかもしれませんが、食糧生産過程における環境負担(水・土地利用や温室効果ガス排出など)は大きく、欧米諸国では環境問題上の主要論点となっています。
環境問題に関する数々のドキュメンタリー
2006年に制作されたドキュメンタリー、”不都合な真実(An Inconvenient Truth)”は、世界中多くの人々の環境問題への意識を変えましたが、近年は、”畜産による環境破壊”がテーマのドキュメンタリーが欧米を中心に話題になっています。
2014年の”Cowspiracy”というドキュメンタリーが最も有名ですが、このような映像を観たことをきっかけに菜食の実践を始めた人も多く存在します。
アメリカのある調査では、ビーガン・ベジタリアンの4割が、こうしたドキュメンタリーをきっかけに食生活を見直したと回答しています。
菜食を実践しやすい社会環境
3つ目の理由には、欧米では日本よりもはるかに菜食を実践しやすい環境が整っていることが挙げられます。
需要があってこそではありますが、菜食人口が急増化している国では、どの飲食店でも当たり前のようにビーガン対応メニューを導入していたりと、菜食実践へのハードルが低くなっています。
菜食オプションが当たり前に
例えば、米国のニューヨーク(NYC)では、ビーガンもしくはベジタリアン特化のレストランは140店舗以上あり、その他にも多くの飲食店が、菜食対応のメニューを導入しています。
また、スーパーマーケットで”菜食コーナー”が設けられているところも多く、クオリティーの高い植物性のお肉(大豆ミートなどの代替食品の進化版)などの取り扱いも豊富です。
やろうと思えば誰でもできる社会
日本では、菜食であることによって行けるレストランが限定されたり、周囲の理解を得られなかったりと何かと不便も多いのですが、欧米ではビーガンやベジタリアンに対する社会的な理解が進んでいます。
どのお店でもベジタリアンやビーガンのものがあるということに加え、家族や友達、同僚などの理解も得やすいということも、菜食人口の増加を後押ししている要因の一つです。
日本での菜食トレンド推移
一方日本では、ビーガンやベジタリアンを実践する人はほとんどおらず、ビーガンとして外食をすることも非常に困難な状況です。
社会としても菜食実践者に対する理解は浸透しておらず、日本は先進国の中では、菜食として最も生活しにくい国の代表格です。
日本では未知数な菜食人口
日本の菜食人口を調べたデータはひとつだけあり、それによると”日本人の4.7%がベジタリアン”となっています。
しかし、この調査はサンプルサイズが非常に小さく、国全体の数値としては有効でなく、実際にはそれよりも少ないことが推測できます。
ベジタリアンの定義が幅広い日本
また、日本ではベジタリアンやビーガンの定義が曖昧です。
“ベジタリアン”として有名な方が「魚は食べます」と公言していたり、他にもテレビで「ベジタリアンですが、鶏肉は食べます」と言う人がいたりと、何か特定の食材を抜いた食生活のことを”ベジタリアン”と呼ぶ傾向にあります。
こうした解釈が悪いということは全くありませんが、単語の定義がグローバルスタンダードとは異なるため、単純な海外との比較ができません。
日本で菜食が浸透しない理由
欧米の先進国と比較すると、菜食が圧倒的に浸透していない日本ですが、これには欧米とは異なる文化的な特徴が関連していると考えられます。
いくつか理由を挙げると、以下のようなものがあります。
文化として定着した魚・肉料理
日本食と言えば”魚”と言っていいほど、日本の食文化に魚は欠かせない存在です。お寿司や焼き魚だけでなく具材やダシとしても、魚介類を使用した料理は枚挙にいとまがありません。
さらに、戦後はお肉も日本の食文化に深く浸透していき、すき焼きなど日本特有の肉料理も多数あります。
魚や肉が日本人の食文化に深く根付いていることが、菜食実践が日本で浸透しない理由の一つです。
“保守的”思考の強い国民性
欧米、特にアメリカ食文化における”肉”は、日本で言えば”魚”と同様に大切な位置づけとなっていますが、それでも”文化や伝統にとらわれないリベラルな思考”を持った若者を中心に、菜食人口が急激に増加しました。
アメリカでは、ベジタリアンやビーガンを実践する人の約95%がリベラル派の政治思考を持っていて、保守派は5%に届きません。
良く言えば「文化を重んじる素敵な国民性」を持った日本ですが、保守的思考を持った人が非常に多い日本社会では、菜食のような新しい概念が浸透しにくいと考えられます。
言語の壁による情報格差
インターネットさえあればどんな情報も手に入る時代ですが、ネット上にある日本語での情報は極めて限定的です。
菜食関連の情報や映像は英語ソースが最も多く、そもそも日本人がそれらの情報に触れる機会がなかったり、そうした情報を”自分ごと”としてインプットできないことも、先進的な思考が日本社会に浸透しない理由のひとつと考えられます。
欧米ほど強くない健康への危機感
また、日本は世界でも有数の長寿国で、和食中心の食生活さえしていれば長生きできると認識している日本人も多いです。
一方で欧米人、特にアメリカ人は、自国の食文化が不健康だと自負していて、「このままではまずい」との危機感があり、食生活の見直しに耳を傾けやすい状況にあります。
根本的に食生活を見直す必要性を感じる人が少ない日本では、菜食のような新たな食生活が浸透しないのも頷けます。
環境問題への意識の低さ
世界3位の経済大国である日本ですが、国土の狭さも影響してか、「日本人の地球環境への負担はそれほど大きくない」と感じている人も少なくありません。
欧米では畜肉生産による環境負担を理由に菜食を実践する人も多いですが、食料の7割近くを輸入に頼る日本では、食生産による環境負担を実感しにくい状況にあります。
このような環境問題に対する鈍感さも、菜食が浸透しない背景の一つに挙げられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
日本ではあまり浸透していないものの、欧米先進国を中心にビーガンやベジタリアンの菜食は急速に浸透しています。
そうした国から日本を訪れる人が増加し続けていることに加え、日本人の間でも、若い世代を中心に今後5年以内に間違いなく新たなスタンダードとして浸透していきます。
彼らの考えや行動を理解できる・できないに関わらず、飲食店やスーパーでの菜食オプションは、「あって当たり前」の存在になっていきます。
皆さんも、流行を先取りしてビーガンやベジタリアンを試してみたり、飲食店などでも、時代の流れを読んで早めに菜食メニューを準備しておくのも良いでしょう。