欧米諸国を中心に増加し続けるヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義者。
健康改善や環境保全、動物愛護など、様々な動機から「一生野菜しか食べない」と決意する菜食主義者ですが、どんなに強い信念を持っていても、お肉のあの美味しさを忘れることができない人も多いのは事実。
そんな、ヴィーガンやベジタリアンにとって救世主の代替肉、いわゆる「もどき肉」ですが、味や食感、風味までも「本物のお肉」を目指す植物性代替肉スタートアップが、今世界中でしのぎを削っています。
そこで今回は、代替肉企業で世界初の上場(NASDAQ)も果たし、日本上陸も噂され続けるアメリカのビヨンド・ミート(Beyond Meat)について、詳しく解説していきます。
目次
増加する完全植物肉スタートアップ企業
ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義者は日本では未だマイナーな存在で、「ちょっと変わった人たちの集団」みたいなイメージをお持ちの方も多いでしょう。
しかしながら、近年アメリカやイギリス、ドイツやフランスなど欧米先進国を中心に菜食主義者の人口増加が顕著で、欧米諸国で「肉の消費を減らす」ことは新たなスタンダート*にもなりつつあります(参考)。
※どの国にも精肉店を襲撃するような過激思想の人たちが一部います。ただ、そのような人は菜食主義者の中でも少数派で、過激な行動や言動がスタンダート化しているという意味ではありません。
21世紀特有の社会事情が後押し
「またまた。いつも欧米の人たちは極端なんだから。」なんて感じる方も少なくないかもしれません。
しかし、現在の欧米各国では、お肉を全く口にしないヴィーガンやベジタリアンのみならず、お肉の摂取量を減らすだけのフレキシタリアンと呼ばれる食生活も広く浸透しています。
この「肉食減」の行動変化の背景には、近年になって顕在化してきた肉食に起因する健康問題や環境問題など、21世紀特有の社会事情が存在しています。
お肉にまつわる健康問題や、ヴィーガンやベジタリアンの健康メリットは別記事で詳しく解説していますので、興味のある方はチェックして見てください。
「本当は肉が食べたい」菜食主義者
また、菜食主義者がお肉そっくりの食品を求める心理に矛盾を感じる人もいるかと思いますが、昨今の菜食主義者はお肉の味は嫌いじゃない人がほどんどで、「むしろ味は好き」なんて人も一定数います。
「ほんとは肉食べたいんじゃん」「食べたいのに我慢るるなんてバカじゃないの?」
なんて揶揄したくなる気持ちもわかりますが、現代の菜食主義者の多くが「お肉やお魚が嫌いになったから」ではなく、「お肉を食べる喜びを捨ててでも、問題の悪化に加担したくない」という動機で実践しています。
こうした事情が、菜食主義人口が増える欧米諸国において、一見矛盾に感じる植物性の疑似肉が人気を集める背景にあります。
※ ヴィーガンやベジタリアンの実践動機の詳細は、別記事でも解説しています。
注目の代替肉スタートアップ4選
2019年にナスダック(NASDAQ)上場を果たしたビヨンド・ミートの他にも、代替肉に注力するスタートアップが数多く存在します。
2025年に市場規模が3兆円を超えるとも予測される代替肉市場。
ビヨンドミートについて詳しく見ていく前に、近いうちの上場も期待される有望スタートアップを4つ厳選してご紹介します。
別記事では30社以上の代替肉・代替乳・代替卵ブランドを一挙にご紹介していますので、ご参考まで。
インポッシブルフーズ(Impossible Foods)
米国スタンフォード大学教授のパトリック・ブラウン(Patric Brown)氏を中心に、2011年に創業されたインポッシブルフーズは、ビヨンドミートに次ぐ第二の植物性代替肉ブランドとして注目されています(Impossible Foods公式サイト)。
大豆や芋類のタンパク質を主な原材料に、特許技術で生産した大豆由来のヘム鉄でリアルな肉汁感を演出しており、インポッシブルバーガーの「お肉の再現力はビヨンドミート以上」とも言われています(参考)。
インポッシブルフーズ社の現在の企業評価額は4,000億円超で、これまでビル・ゲイツを含む多数の投資家から総額1,400億円以上の資金調達を成功させています(参考)。
アメリカ全土、7,500店舗のバーガーキングに加え、1万5,000店舗のスターバックスでも取り扱いがあります(参考1, 参考2)。
2021年現在、上場を視野に入れた資金調達に動いているとの報道もあり、今後の動向から目が離せないユニコーンスタートアップです(参考)。
イートジャスト/旧名ハンプトンクリーク(Eat Just fka Hampton Creek)
インポッシブルと並んで注目を集める、アメリカ発の代替食スタートアップが、イートジャストです(EatJust公式サイト)。
元々アフリカでの支援活動に従事していたジョシュ・テトリック(Josh Tetric)氏によって、2011年に創業されたイートジャスト社は、お肉ではなくスクランブルエッグなどの卵を100%植物で再現する企業です。
特許素材の緑豆タンパクを主原料に、マヨネーズやクッキーなど、従来であれば卵を含む食品の代替品を次々に市場に送り出し、これまでに300億円以上の資金調達を実施(参考)。
企業評価額は2,000億円を超えており、上場を見据えた最終資金調達ラウンドを実施中とも報道されています(ソース)。
2017年からは細胞培養肉*にも着手し、2020年には世界初めて細胞培養肉の販売認可も取得した、超注目スタートアップです(ソース)。
※ 細胞培養肉:家畜から細胞だけ取り出し、その細胞を培養する(人工的に育てる)ことで作られるお肉のこと。植物性の代替肉と異なり「本物の肉」。屠殺が不要で環境負荷も軽いことから、植物代替肉の次の技術として期待されています。
グッドキャッチフーズ(Good Catch Foods)
こちらもアメリカ発、グッドキャッチフーズは、100%植物で魚(マグロ)を生み出す代替食スタートアップです(Good Catch Foods公式サイト)。
マグロと言ってもツナ缶に入っているようなフレーク状のマグロですが、ツナ缶消費量世界トップのアメリカで既に1,000店舗以上で取り扱いのある、大注目の代替肉のひとつです(参考)。
原材料には特許取得済みの新規豆素材(えんどう豆、ひよこ豆、レンズ豆、大豆、そらまめ、インゲン豆の6種ブレンド)を使用し(参考)、これまでに50億円以上の資金調達も成功させています(参考)。
未だ黎明期とも言える魚介類の代替食品ではトップを走っていて、今後の成長への期待大のフードテックベンチャーです。
メンフィスミーツ(Memphis Meats)
ビヨンドミートや上記の3社はどれも「植物から肉のような食品」を作るプラントベースですが、「動物の細胞から本物の肉」を人工的に作る細胞培養肉も、代替肉界隈で大きな注目を集めています。
細胞培養技術でつくられる代替肉は、クリーンミートやセルベーストミート、カルチャードミートとも呼ばれ、メンフィスミーツはこの分野のトップランナー的ベンチャー企業です(Memphis Meats公式サイト)。
医師のウーマ・ヴァレティ(Uma Valeti)氏らにより創業されたメンフィスミーツは、2016年に世界初となる細胞培養ミートボールを公開し(参考)、翌17年には細胞培養フライドチキンもお披露目しています(参考)。
いずれもコスト高を理由に未発売ではありますが、2021年中の一般販売を目指してコスト削減に取り組んでいると報道されています(参考)。
代替肉で「世界初上場」を果たしたビヨンド・ミート
前置きが長くなりましたが、ここから本題のビヨンドミート社(Beyond Meat)について解説していきます。
ビヨンドミートは、米国カリフォルニア州、マンハッタンビーチに本部を置く2009年創業のスタートアップです。
えんどう豆などの植物性タンパク質を主原料に、ハンバーガーのビーフパティーやソーセージ、フライドチキンなどの100%植物性プラントベーストミート(フェイクミート)を開発・販売しています。
ビヨンドミート社の主力商品「ビヨンドバーガー」
※ 上の動画を再生すると音が流れる可能性があります。ご注意ください。
ビヨンドミート社の商品で最も有名なのは、ハンバーガー用ビーフパティーのビヨンド・バーガーです(2016年発売)。
上の動画の通りビヨンドバーガーは、生肉のようなピンク色の状態から、肉汁のようなジューシーさ(シズル感)を伴って褐色へと変化していきます。
食べた時の味だけでなく、100%植物性でありながら調理体験までも「本物の肉」を再現したのもビヨンドバーガーの特徴のひとつです。
日本において、一般的なスーパーでもソイミート(大豆ミート)などが購入可能ですが、日本における「もどき肉」や「精進料理」とは一線を画したクオリティです。
生肉として売られるビヨンドバーガー
上記の通りビヨンドバーガーは、味や風味、食感だけでなく調理体験まで「本物の肉」が再現された、過去の代替肉の常識を破壊した商品と言えます。
さらに、このビヨンドバーガーは、米国大手スーパーで初めて生肉コーナーに陳列された「肉じゃない商品」となったことでも有名です(参考)。
従来の代替肉は、スーパーの隅にひっそりとたたずむ「代替肉セクション(Meat Alternative Section)」に置かれ、基本的には菜食主義者以外の目に触れることの無い商品でした。
しかしながらビヨンドバーガーは、そのクオリティーの高さから「本物のお肉と同じ棚」に陳列されており、購入者の90%が非菜食主義者(普段お肉を食べる人)と言われています(参考)。
このように、ビヨンドミートがヴィーガン向けの枠を超えた商品であることも、上場まで急成長を遂げた背景にあると言えるでしょう。
ビヨンドミート社のその他の商品
バーガーパティーで知られるビヨンドミート社ですが、これ以外にも様々な代替肉商品を展開しています。
ビヨンドバーガー以外の主力商品には以下の商品があります。
- ビヨンド・ミートボール(Beyond Meatballs)
- ビヨンド・ソーセージ(Beyond Sausage)
- ビヨンド・チキン(Beyond Chicken)
- ビヨンド・ビーフ(Beyond Beef)
上記以外にも、ミンチ肉のビヨンド・クランブル(Beyond Crumbles)などもありますが、ここでは主力4商品に絞ってみていきます。
また、2019年に開発していたベーコン(Beyond Bacon)は、2021年現在まで発売等の報道もなく、開発に予想以上の時間を要している模様です(参考)。
ビヨンド・ミートボール:Beyond Meatballs
2020年9月発売の、ビヨンドミート最新商品がこのミートボール。
アメリカ国内ではコストコ(Costco)やホールフーズ(Whole Foods)など主要スーパーで販売されているほか(参考)、中東ドバイではスターバックスが取り扱いを開始と発表(参考)。
ドバイのスタバではサンドイッチの具材として使用されるなど、国ごとの食文化に合わせ、多様な料理の具材として活用が期待されています。
日本食では肉団子として、お鍋料理などでも使えるかもしれませんね。
ビヨンド・ソーセージ:Beyond Sausage
2017年末に登場したソーセージも、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)などアメリカ全土の主要スーパーで購入可能で、ビヨンドミート社の主力商品のひとつです。
TGIフライデーズやダンキンドーナツなどの飲食店でも取り扱いがある他(参考)、日本でもお馴染みのピザハットもトッピングにビヨンドソーセージを導入済み(参考)。
ビヨンドソーセージも生肉状、本物の肉同様に焼いてから食べる仕様になっています。
また、日本ではマフィンにあたるブレックファストソーセージはイギリスで人気で、スターバックスがビヨンドミートを使った朝食メニューを展開しています(参考)。
ビヨンド・チキン:Beyond Chicken
バーガー肉(牛肉)が注目を集めるビヨンドミートですが、チキンも主力商品のひとつです。
実はビヨンドミート社の最初のプロダクトは鶏肉(チキンストリップ)で、ビヨンドミート社の原点とも言える商品です(参考)。
スーパーなど小売店ではチキンの販売を一時的に休止していますが(参考)、現在カリフォルニア州内のケンタッキー・フライドチキン(KFC)で植物性フライドチキンを販売中です(参考)。
また、2021年にはシンガポールのケンタッキー80店舗でチキンバーガーを発売すると発表しています(参考)。
ビヨンド・ビーフ:Beyond Beef
2019年3月デビューの新版ビーフも、ビヨンドミートが注力する主力商品のひとつに挙げられます。
有名なビヨンドバーガーと同じく牛肉の代替食品ですが、バーガー以外の様々な料理に使えるよう改良したのがこのビヨンドビーフです(参考)。
そぼろ肉としてタコスやブリトーの具材にしたり、丸めてミートボールにしたり、棒につけてつくね棒(本来鶏肉ですが)のようにしたり、ミンチ肉と同じように自由自在に調理できるのが特徴です。
ホールフーズなどの主要スーパーで取り扱いがある他、アメリカで全国展開するメキシカン料理屋、デル・タコ(DelTaco)などのメニューにも使用されています(参考)。
日本食ならそぼろ弁当など、ひき肉を使った様々な料理で活躍してくれそうですね。
ビヨンドミートはどこで買えるの?
多岐にわたる商品展開で成長を続けるビヨンドミートですが、アメリカ、カナダ、イギリスを中心に、以下の小売店では以下のような場所で購入可能です(参考)。
- コストコ(Costco)
- ウォルマート(Walmart)
- ホールフーズ(Whole Foods)
- ターゲット(Target)
- セインズベリーズ(Sainsbury’s)
アメリカだけでも2万6,000店舗以上の小売店で購入可能で、全世界85ヵ国、累計11万2,000店舗での取り扱い実績があると発表されています(参考)。
北米とイギリス以外では、欧州でデンマーク、スウェーデン、フィンランド、中東でドバイやイスラエル、UAEなど、アジアで香港やシンガポール、インドネシアなどへも進出しています(参考1, 参考2, 参考3, 参考4, 参考5)。
レストランへの展開も活発なビヨンドミート
レストランやカフェなどの飲食店では、主に以下のような店舗がメニューにビヨンドミートを導入しています。
- スターバックス(Starbucks)
- ダンキンドーナッツ(Dunkin’ Donuts)
- TGIフライデーズ(TGI Friday’s)
- ケンタッキーフライドチキン(KFC)
- ピザハット(Pizza Hut)
- カールズジュニア(Carl’s Jr.)
太字は日本でも店舗を構えるグローバル企業ですし、ビヨンドミート社は今後50カ国以上への海外進出計画も発表しています(参考)。
日本ではどこで、そしていつ購入できるのかも詳しくチェックしてみます。
ビヨンドミート株を持つ日本の三井物産
日本におけるビヨンドミートの販売状況をくまなく調べてみると、大手商社さんの三井物産がビヨンドミートの日本進出の鍵を握っている様子が伺えます。
三井物産さんは、ビヨンドミートが上場する前の2016年、持ち株比率はわずかながら出資(ビヨンドミートの株を取得)したことが報道されています(参考)。
「ビヨンドミートを日本に持ってくるなら三井物産」ということは、2016年当初から噂されていましたが、2021年現在、残念ながら日本上陸は実現に至っていません。
三井物産はビヨンドミート日本進出から撤退?
また、世界で代替肉への流れが急加速する最中、2019年8月に三井物産さんはビヨンドミートの日本進出計画取り止めを公表したと報道されました(参考)。
三井物産さんがビヨンドミートを日本に持ってくるのは今後ないのかもしれませんが、他にも住友商事さん、三菱商事さん、丸紅さん、伊藤忠さんや豊田通商さんなど、実力のある商社はいくつもあります。
自社商品での勝負に切り替えたり、ビヨンドミート以外に目をつけた代替肉があるのかもしれませんが、何か報道があれば、随時こちらの記事でお伝えします。
ビヨンドミートって美味しいの?
見た目から調理体験まで、本物の肉を忠実に再現しているビヨンドミートですが、肝心の「味」はどうなのでしょうか。
筆者が米国在学中(約3年前)にビヨンドバーガーを食べた時の感想で恐縮ですが、「あれ、これ肉じゃないの?」というのが最初の印象でした。
言われなければ「お肉そのもの」
一人では正確な判断はできませんので、お肉が大好きな大阪出身、NY在住の友人にも食べてもらい、その感想を聞いてみました。
ビヨンドバーガーを豪快にほうばり、もぐもぐを繰り返した彼の口から最初に出た言葉は「うん、肉やな。」でした。
食べ物に好き嫌いがあるように、ビヨンドミートを食べた感想は人それぞれだとは思います。
ただ、バンズに挟まれ、ソースやマヨネーズで味付けされ、レタスやトマト、チーズも一緒にされた状態であれば、言われなければ肉じゃないことに気づかないほどの高いクオリティーであることは確かでしょう。
特にハンバーガーでは「偽物であることに気づきにくい」
本場アメリカで、本物のお肉とビヨンドミートを食べ比べたユーチューブ動画があるので簡単にご紹介します。
本物のお肉でできたビッグマックと、ビヨンドミートのビッグマックを食べ比べ(テイストテスト)するこちらのエピソードでは、「本物より良いね」なんて感想も出ています。
※ 1:55からテイストテストが始まります。
食べ進めるうちに、「ビヨンドミート独特の風味」が少し気になるとのコメントもありますが、「悪い意味では無い」と後付けしています。
また、ソースやマヨネーズなどの味付け、レタスやトマトなどの具材など「お肉以外の要素は本物のビッグマック全く同じ」であることも、本物のお肉と大きな差を感じない理由とコメントしています。
本物の肉と食べ比べれば劣るビヨンドミート
味付けや「何と一緒に食べるか」次第で、植物性だと気づかないほどにレベルの高いビヨンドミートですが、単体で食べると違いは未だはっきりと認知できてしまいます。
ビヨンドミート社自身も「発展途上」と認めているように(参考)、本物の肉の脂が持つ食感や口の中に広がる肉々しさ、肉独特の風味など、本物の肉との違いを感じる点はまだまだ残されています。
毎年のように改良版が登場するなど、今もなお「よりリアルな植物肉」を目指して歩みを続けるビヨンドミートですので、今後の更なる発展に期待です(参考)。
ビヨンドミート大流行の背景にあるものとは?
2009年、エネルギー関連企業から脱サラしたアメリカ人、イーサン・ブラウン氏(Ethan Brown)によって創業されたビヨンドミート社(参考)。
サベッジ・リバー(Savage River Inc.)という、今とは異なる社名でスタートした同社ですが、創業10年にして代替肉企業で史上初めての上場(ナスダック市場)を果たし、今や日本でも多くの人が認知する企業となっています。
アメリカから生まれたこのサクセスストーリーには、一体どんな裏があるのか。
上述したような本物同然のクオリティーの高さももちろん大きな要因の一つですが、ビヨンドミートの原点まで遡ってもう少し紐解いてみたいと思います。
ビヨンドミート創業者の思い
創業者で現在もCEOを務めるイーサン・ブラウン氏は、もともと環境問題を最大の社会問題と捉えていた人物で、ビヨンドミートを始めるまでの約10年間、再生可能エネルギー事業に携わっていました(参考)。
再生可能エネルギーの力を信じて仕事に打ち込んでいたブラウン氏ですが、地球温暖化について深く知れば知るほど「食べ物の影響力を無視できないようになっていった」と語っています(参考)。
再生可能エネルギーよりも植物肉?
リニューアブルエナジーの中でも、太陽光や風力などで発電した電気を充電するためのリチウムバッテリーを専門としていたブラウン氏ですが、ある頃から、
「バッテリー効率を1%向上させることに必死になりながら、会議の後には皆ステーキを食べる」
という現実に違和感を覚えるようになったと言います(参考)。
環境保護から「脱牛肉」を提唱するビヨンドミート
ちょっと意味不明かも知れませんが、ブラウン氏のこの思考背景は、地球温暖化の要因を産業ごとに細分化することにより見えてきます。
国連及びIPCCによると、地球上に放出される人間由来の温室効果ガスのうち、発電によって排出されるのは全体の25%、肉(主に牛肉)の生産による排出量は全体の約15%を占めています。(国連、IPCC)
電力セクターが最も多くの温室効果ガスを排出していることに変わりないのですが、それでもなお、
「リチウム効率を1%向上させるより、牛肉をよりエコな食材に置き換えた方が遥かに多くの温室効果ガス排出を削減できる」
と考えたことが、ブラウン氏がエネルギー産業を飛び出し、代替肉のビヨンドミート創業に至った背景にあります(参考)。
環境動機でヴィーガンのビヨンドミートCEO
ブラウン氏は、肉食がもたらすこのような環境問題を理由に、私生活においても肉を食さないエンバイロメンタル・ヴィーガンの一人です(参考)。
ビヨンドミートCEOのような、環境問題を背景とする菜食主義などについて、より詳しく知りたい方は以下の記事もチェックしてみてください。
環境問題を背景に支持を集める代替肉
なんとなく「お肉は環境に悪い」ということは、みなさんも耳にしたことがあるかもしれません。
ですが、ブラウン氏が考えるように、実際にハンバーガーの牛肉をエコなものに置き換えた場合、どれほどの影響力があるのでしょうか?
従来の牛由来のお肉から植物性のパティに替えた場合の違いを、ビヨンドミート社がミシガン大学と共に算出していますので、ちらっとそちらの数字をみてみましょう。
植物性のビヨンドミートはエコフード?
ハンバーガー用の牛肉パティー1枚あたり、約113gの牛肉が使われるとして(参考)、牛肉の代わりにビヨンドミートを食べた場合の環境負担の違いが以下です(参考)。
- 温室効果ガス排出量:90%オフ
- 使われる水:99%オフ
- 森林伐採面積:93%オフ
※ライフサイクル・アセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)という手法に基き、製造プロセス全体で算出しています(参考)。
これらの数字が何を意味するのか、もう少し掘り下げてみます。
ハンバーガー1個分の温室効果ガス
ハンバーガーパティー1枚分の牛肉を作る過程で排出される温室効果ガスの量は、3,051g(CO2換算)と算出できます(参考)。
これは、車で約18kmを運転して出る排気ガスと同じ量の温室効果ガスになります(参考)。
上記の数値に基づくと、普通の牛肉バーガーの代わりにビヨンドミートを食べると、温室効果ガス排出量を1/10に減らせることになります。
エコカーに乗り換えるより、ハンバーガーのお肉を一枚かえた方がより効果的な地球温暖化対策になるかもしれませんね。
ハンバーガー1個分の水使用量
また、ハンバーガーの牛肉1枚を作るのに必要な水は1,741ℓ(お風呂9杯弱)とされています(参考)。
この水は、牛がお肉になるまで毎日ごくごく飲む分もそうですが、牛の飼料(エサ)を育てるのに使われる水も含まれます(参考)。
ビヨンドミートの算出に基づくと、普通のバーガーの代わりにビヨンドミートを食べることで使う水の量を99%減らせる、つまり、1%の水で同じ重さのバーガーパティーを作れることになります。
雨の豊富な日本ではあまりピンときませんが、温暖化の次に深刻な環境問題として、世界的な水不足が懸念されています(参考1、参考2、参考3、参考4)。
水の70%が人間の食糧生産に使わている現在、農畜産業でいかに効率よく水を使うかが問われていて(参考1、参考2、参考3)、このビヨンドミートが「節水になる食品」であるということも多くの支持を受ける背景にあります。
ハンバーガー1個分の森林伐採面積
どんな食べ物でも農地が必要ですが、ハンバーガーの牛肉1枚を作るのに、3.8㎡の土地が必要とされています(参考)。
ここには、飼料(エサ)を育てるのに必要な土地面積も含まれます(参考)。
アマゾンの森林火災が記憶に新しいですが、農畜産業用の新しい土地開拓には、放火などの手法による森林伐採が伴います(参考1、参考2、参考3、参考4)。
上のLCAに基づくと、普通のバーガーの代わりにビヨンドミートを食べることで、伐採面積を93%減らせる、すなわち、7%の土地があれば同じ重さのバーガーパティーを作れることになります。
ビヨンドバーガーを食べるだけで93%も森林を焼かなくて済むなら、なんか食べる価値がありそうな感じがしますよね。
ビヨンドミートに賭けた投資家たち
ビヨンドミート創業者のこうしたビジョンは投資家からも支持され、創業期から多くの出資を受けることに繋がりました(参考)。
マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏をはじめとする投資家やタイソンフーズなどの大手食肉会社、さらにはスヌープドッグなどのセレブリティーも投資をし、エグジットまでの調達総額は130億円以上にのぼります(参考1、参考2)。
こうした有名投資家からの出資を受けるたびにニュースにも取り上げられ、資金面だけでなく、マーケティングにおいても販路開拓においても彼ら・彼女らの強力なバックアップがあり、今日に至っています。
ここでは、上場前のビヨンドミートを支えてきた有名投資家を数人紹介します。
ビル・ゲイツ:Bill Gates
貧困や環境問題解決を目的とする数々の事業に投資を行うビル・ゲイツ氏は、ビヨンドミートへ投資した一人です(参考)。
ビヨンドミート創業者のブラウン氏同様、ゲイツ氏も食肉生産による環境問題悪化を危惧する人物で、競合のインポッシブル・フーズ社にも投資をしています(参考)。
ちなみにゲイツ氏の好物はハンバーガーで、自身はベジタリアンでもビーガンでもありませんが(参考)、肉よりエコな擬似肉を世に送り出したことによる環境への貢献度は計り知れません。
レオナルド・ディカプリオ:Leonardo DiCaprio
イケメン実力派俳優として有名なレオナルド・ディカプリオ氏も、上場前のビヨンドミート社に投資した著名人の一人です(参考)。
「なぜレオ様がビヨンドミートに?」と感じる人も多いかも知れませんが、ディカプリオ氏はアメリカ国内では環境活動家としても有名で、地球温暖化抑止に代替肉が有効と考えて投資をしたと考えられています(参考)。
ディカプリオ氏はビヨンドミートの他にも、100を超える環境関連団体に総額20億円以上の寄付を行うなど、環境問題解決のために精力的に活動している人物です(参考)。
また、自身での公言は避けているものの、温暖化抑止の視点から肉の消費を減らすフレキシタリアンなどの菜食主義者であると考えられています(参考)。
ビズ・ストーン(Biz Stone)
ツイッター(Twitter)創業者のビズ・ストーン氏(Biz Stone)もビヨンドミートに賭けた投資家の一人です。
「ツイッターの創業者なんて、ただのお金持ちでしょ」なんてイメージもあるかも知れませんが、ストーン氏は慈善活動家としての顔を持ち、貧困などの人権問題や地球温暖化などの環境問題、さらに動物福祉などに関わる活動に熱心な人物です(参考)。
長きに渡りヴィーガンでもあるストーン氏は、環境問題と動物福祉の双方に関わるビヨンドミートの事業に強い魅力を感じ、創業間もない時期から投資を行っていたとされています(参考1、参考2)。
ビヨンドミートの株価や将来性は?
「食を通した環境保全」という斬新なビジョンで、多くの支持を得てきたビヨンドミート社。
2019年5月の上場では、960万株を売却して約260億円を調達するなど(参考)、日本でも大きくニュースにとりあげられましたね。
IPO初日の終値が163%高を記録するなど(参考)、上場を機に日本の投資家からも熱い視線が集まるビヨンドミート(株価急落もありましたが)ですので、今後についても考えてみたいと思います。
ビヨンドミート史で初の黒字化
2019年、ナスダック上場に加え、ビヨンドミートにとってもうひとつの転換点が訪れました。それは、創業以来初となる黒字化の達成です。
上場までずっと赤字というのも少し驚きですが、2019年7-9月期の売上高が100億円を超え、前年同期の3倍以上(前年比+250%)を記録しました(参考)。
前年(2018年7-9月期)は約10億円の赤字でしたが、2019年同期には約4億5,000万円の黒字に転換し、これが約10年間のビヨンドミート史で初の黒字決算となりました(参考)。
生産量増加に加え、調達資金をつかった生産体制の強化等もあり、製造単価の低減に成功したことが黒字化の大きな要因と考えられます(参考)。
ビヨンドミート株(BYND)は買い?それとも売り?
右肩上がりの売上と黒字転換に加え、先述したようなKFC等の新規飲食店への導入やベーコンなどの新商品への期待、欧州での製造体制強化など、さらなる成長要因が多く見受けられるビヨンドミート(参考1、参考2)。
一方で、競合のインポッシブルフーズのバーガーキングとの提携や中国進出に加え、代替肉市場への大手参入による競争激化を懸念する見方もあります(参考)。
どちらと踏むかは専門家でも見解が分かれますが、プラントベーストミート市場全体の今後の動向も参考のためにみておきましょう。
プラントベーストミート市場の成長予測
代替肉市場全体で見ると、今後も数年間は年平均成長率(CAGR)15%で成長が続くと予測されています(参考)。
ビヨンドミートを含むプラントベーストミート市場は、2019年は約1兆3,000億円ほどの規模と算出されていますが、2025年にはこれが約3兆円に拡大するとの見込みです(参考)。
ただ、先述した環境的側面だけで捉えると「必要不可欠なプロダクト」であることは間違いないものの、後述する健康懸念の広まりなど、プラントベーストミート市場に強い逆風が吹く可能性もゼロではありません。
ビヨンドミートを筆頭とする代替肉各社が、今後いかにして健康をアピールし続けられるか、また、消費者の環境問題への懸念が今後どれほど高まるか。
こうした要素も、ビヨンドミートだけでなく、代替肉市場全体の今後の成長に大きく関わってくるかもしれません。
ビヨンドミートは健康的?それとも体に悪い?
見た目は本物のお肉そっくりに作られ、味も言われなければ植物とわからないほどハイクオリティーのビヨンドミート。
でも、いくら美味しくて環境に良いと言っても、消費者としてはやはり健康面も気になるところですよね。
ここからは、ビヨンドミートの健康メリット&デメリットについてみていきます。
お肉じゃないことによる健康メリット
ハンバーガーだけでなく牛丼や焼肉など、「お肉大好き」という方も多いかと思います。
その美味しさのみならず、日々のタンパク源としても優秀なお肉ですが、完全植物性のビヨンドミートを掘り下げる前に、まずはお肉がもたらす健康への影響から考えてみます。
優秀なタンパク源であるお肉だけど…
美味しいだけでなく、私たち人間が健康に生きるために欠かせない必須アミノ酸(タンパク質)も豊富なお肉。
タンパク質は私たちの肌や爪、髪の毛などだけでなく、臓器などもつくっている栄養素で、肉はその栄養素を豊富に含む食品のひとつであることは言うまでもありません。
一方で、世界保健機関(WHO)がお肉を発がん性物質に指定していたり、心臓病や糖尿病のリスクを高めることも指摘されていたり、健康に悪影響を与える可能性のある食品であることも事実です(参考1、参考2、参考3、参考4、参考5)。
これらのリスクについて、さっと目を通してみます。
発ガン性が指摘される赤肉や加工肉
まずはお肉の発癌性についてですが、WHOは、ベーコンやソーセージなどの「加工肉」を癌との関連性が最も強いグループ1に、未加工の牛肉などの「赤肉」をひとつ下のグループ2と認定しています(参考)。
グループ1には加工肉の他に、タバコやアスベスト、プルトニウムなども含まれ、加工肉はこれら同様に「発癌性物質である可能性が高い」というのがWHOのポジションです(参考)。
加工肉や赤肉の発癌作用は、お肉を焼いた際に発生する発ガン性物質、PAH(多環芳香族炭化水素)に主に起因すると考えられていて(参考1、参考2、参考3、参考4、参考5、参考6)、例えばWHOは「毎日50gの加工肉を食べると、大腸ガンのリスクが18%上昇する」としています(参考)。
心疾患リスク増も指摘される加工肉
発ガン性に加え、加工肉は心疾患のリスクを高める可能性も指摘されています(参考1、参考2、参考3、参考4)。
120万人を対象とした研究では、日常的に加工肉を食べることで心疾患リスクが最大42%高まるとも示されています(参考)。
糖尿病との関連も指摘される加工肉や赤肉
また、「糖質の取りすぎ」というイメージの強い糖尿病についても、加工肉や赤肉の摂取によるリスク上昇が指摘されています(参考1、参考2、参考3、参考4、参考5、参考6、参考7)。
ある研究では、赤肉を毎日食べることで、4年以内の糖尿病発症リスクが30%上昇するとも示されています(参考)。
お肉の代わりにビヨンドミートを食べれば健康的?
上記のような研究にもとづくと、バーガーパティーなどの加工肉や牛肉を日常的に食すことで、癌や心疾患、糖尿病などのリスクを上げる可能性があると考えられます。
つまり、「普通のお肉の代わりにビヨンドミートを食べることは、様々な疾患のリスク低減に寄与する可能性がある」と言うことができ、これはビヨンドミート社自身も健康訴求に使っている視点です(参考)。
ただ、お肉を食べないことに健康メリットがあるとしても、これがそのままイコール「ビヨンドミートは体に良い」ということにはなりませんよね。
この次は、ビヨンドミートに含まれる添加物などもみていきます。
ビヨンドミートの原材料と添加物
本物のお肉を食べないことによる健康メリットは上述の通りですが、気になるのはビヨンドミートに使われている添加物などの原材料。
原材料リストを元に、一体どんなものからビヨンドミートが作られているのか、そして、本当に安心して食べていいのかなど、確認しておきましょう。
ビヨンドミートの原材料一覧
ビヨンドミート社の主力商品であるビヨンドバーガー(2019年最新版)の、原材料一覧をみてみます。
水、えんどう豆分離タンパク、キャノーラ油(圧搾)、精製ココナッツオイル、玄米タンパク、天然香料、ココアバター、緑豆タンパク、メチルセルロース、ジャガイモ澱粉、りんご抽出物、ざくろ抽出物、塩、塩化カリウム、酢、濃縮レモン汁、ヒマワリレシチン、ビーツ抽出液(着色)、人参
英語版:Water, Pea Protein Isolate*, Expeller-Pressed Canola Oil, Refined Coconut Oil, Rice Protein, Natural Flavors, Cocoa Butter, Mung Bean Protein, Methylcellulose, Potato Starch, Apple Extract, Pomegranate Extract, Salt, Potassium Chloride, Vinegar, Lemon Juice Concentrate, Sunflower Lecithin, Beet Juice Extract (for color), Carrot.
※含有量が多い順に記載されています。
20種類と多いビヨンドミートの原材料&添加物
一覧だけ見ると、原材料の多さに「これで本当に体に害はないの?」と疑いたくなるほどです。
ただし、「添加物 = 体に悪い」とは言い切れませんので、それぞれ詳しくみていきましょう。
※なぜ「添加物 = 悪」と言い切れないかというと、例えば健康的な食べ物のお豆腐を作るのに欠かせない「ニガリ」も、呼び名を変えれば「塩化マグネシウム」で立派な食品添加物です。「お豆腐もニガリが入ってるから体に悪い」とお考えの方に意義は申しませんが、添加物は体に有害なものだけではないということも踏まえておきましょう。
主原料の植物性タンパク
まず、ビヨンドミートの原材料で、水の次に多く含まれているのが植物性タンパクです。
最も含有量が多いのがえんどう豆タンパクで、次いで玄米タンパク、そして緑豆タンパクの順で、合計3種類の植物性タンパクが含まれています。
普段の生活でもホエイプロテインやソイプロテインなど、粉状のプロテイン(タンパク質)をみたことがある人も多いかと思いますが、ビヨンドミートの原材料で使われているのもそれら同様、作物からタンパク質だけを抽出した粉状のものです。
ビヨンドミート社によると、この3種類をブレンドすることによって必須アミノ酸バランスを向上させ、単一植物では難しいアミノ酸スコア100を実現しているとのことです(参考)。
分離タンパクの危険性は調べても見つけることができませんでしたので、危険性の極めて低い原材料だと言えます。
※大豆分離タンパクに関する研究では、フィチン酸等によるミネラルの吸収率低下(参考1、参考2)や、大豆イソフラボンによる甲状腺機能の低下等の可能性(参考1、参考2)も示唆されていますが、フィチン酸などの反栄養素は有害物質ではないこと、及びビヨンドミートには大豆が含まれないことから、懸念に値するものではないと判断できます。
キャノーラ油などの植物油
次に、使用している油についてみていきます。圧搾キャノーラ油と精製ココナッツオイル、ココアバターを使用していて、ここで気になるのが遺伝子組み換え(GMO)が懸念されるキャノーラ油です。
「アメリカのキャノーラ油は全部遺伝子組み換え」だと信じる方も多いようですが、非遺伝子組み換えのキャノーラも流通しており(参考)、ビヨンドミートは非遺伝子組換え(Non-GMO)認証取得済みの商品となっています(参考1、参考2)。
また、心疾患のリスク増とも関係するトランス脂肪酸(参考)も気になるところですが、ビヨンドミートのキャノーラ油は連続圧搾法(Expeller-pressed)で、トランス脂肪酸は0gと表示されています(参考)。
天然香料&天然色素
また、生肉の色(ピンク)を再現するために、ビーツ(Beets)と呼ばれるカブに似た赤紫色の植物から抽出した天然色素(着色料)を使用しています。
ビーツの赤紫の色素はポリフェノール(ベタシアニン)でもあるため身体に悪影響があるとは考えにくいですが、天然香料に関しては何を使用しているか、詳しい記載がありませんでした(参考)。
香料が入っていないに越したことはないかもしれませんが、天然香料は非常に多くの加工食品に添加されており、この原材料の危険性は高くないと言えます。
有害物質とは考えにくいその他の添加物
上記の他にビヨンドミートに含まれる原材料は、メチルセルロース、ジャガイモ澱粉、りんご抽出物、ざくろ抽出物、塩、塩化カリウム、酢、濃縮レモン汁、ヒマワリレシチン、人参です。
メチルセルロースはゲル化剤として、ジャガイモ澱粉は増粘剤や安定剤として、ヒマワリレシチンは乳化剤として使用されていると考えられますが、これらは日本でも様々な食品に含まれる、基準の範囲内であれば人体に影響がないことも認められている添加物です。
また、用途は定かではありませんが、おそらく塩、塩化カリウム、酢、濃縮レモン汁は調味料や保存性向上目的のpH調整剤として、りんご抽出物、ざくろ抽出物、人参は香りや色味づけとして使用されているのではないかと推測できます(参考)。
加工度も高く、添加物も多いビヨンドバーガーですが、上記の全ての原材料の中で危険性が科学的に危惧されているものはなく(どれも噂や陰謀論レベル)、健康食品とは呼べないものの、本物の肉を超えるほどの健康リスクは見つからないというところが公平な判断かと思います。
ビヨンドミートのダイエット効果は?
さて、疾患リスク低減の観点から「本物のお肉よりマシ」と言えるビヨンドミートですが、栄養価や、食べることでダイエット効果があるのかも気になりますよね。
ビヨンドバーガー1枚あたりのカロリーなどの栄養価を、普通の牛肉パティーと比較してみます。
牛肉とビヨンドミートの栄養価比較
栄養価 | 牛肉 | ビヨンド |
---|---|---|
カロリー | 283kcal | 250kcal |
タンパク質 | 29g | 20g |
脂質 | 17g | 18g |
飽和脂肪酸 | 7g | 6g |
コレステロール | 99mg | 0mg |
ナトリウム | 81mg | 390mg |
※ビヨンドミートの栄養成分値は公式サイトより、牛肉パティーの栄養成分値はUSDAより。どちらもバーガー1個分の113gあたり。
通常のビーフパティー(左の列)と比較すると、ビヨンドバーガー(右の列)はカロリーがマイナス33kcal。それほど大きな差ではありませんが、ビヨンドバーガーの方が若干カロリーオフと言える数値です。
タンパク質は本物の肉でできたパティーの方が9gも多い一方で、脂質とそのうちの飽和脂肪酸の量もほぼ同等となっています。
また、コレステロールゼロのビヨンドバーガーですが、ナトリウムが牛肉の5倍近くとなっています(ビヨンドバーガーは塩分相当量にして約1g)。
疾患リスクを下げるのが唯一のメリット
ビヨンドミートは本物のお肉と比べ、カロリーが若干低いものの塩分が多かったり、コレステロールがゼロだけどタンパク質がちょっと少なかったり、正直栄養面ではどちらの方が優れているとも言い難い数値です。
また、添加物の多さや加工度の高さも考えると「ビヨンドミートは健康的」と胸を張って言えるほどの商品ではなさそうです。
しかしながら、先述の牛肉をビヨンドミートに置き換えることで癌や心臓病、糖尿病などのリスクを下げる可能性があるという点は注目すべきで、そこがビヨンドミートの健康面における、唯一で最大のメリットだと言えます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、話題のビヨンドミートについて詳しく解説してみました。
日本から見ていると「ただの流行り」のように感じるかもしれませんが、ビヨンドミートの成長の裏にある創業者の思い、そして、ビヨンドミートのようなプラントベーストミートが世界で求められている背景なども知ると、少し違った見え方になるかもしれません。
日本にいつ上陸するのか待ち遠しいですが、今後もビヨンドミートから目が離せませんね。