最近注目を集め、メディアで目にすることも増えてきたビーガン・ヴィーガン(Vegan)やベジタリアン(Vegetarian)などの菜食主義。
その中でも「完全菜食主義」や「絶対菜食主義」とも訳されるヴィーガンですが、和名が威圧的で、自分とは無縁と感じたり、強烈な印象を持つ方も少なくないはず。
また、動物愛護や宗教的思想背景も強そうなイメージで、「頭のおかしい人たちのやること」と嫌悪感さえ持つ方もいるでしょう。
ですが、私たち日本人が抱くイメージとは異なり、欧米先進国では、ヴィーガンはカジュアルな「食・ライフスタイルの選択肢の一つ」としても浸透しています。
彼女たち、彼らの考えに賛同できるかどうかや、実際に実践するかどうかはさておき、これから日本での普及も予想されているこの菜食主義について、知っておいてきっと損はないはず。
そこで今回は、気になるヴィーガンやベジタリアンなどの定義やそれぞれの違い、動機など、菜食主義の全てをどこよりも詳しく解説していきます。
目次
ヴィーガンとは
まず、ヴィーガン(ビーガン)とは、一体どのような意味なのでしょうか?
なんとなく「最近の若者の流行」という印象のヴィーガンですが、この言葉自体が生まれた歴史は意外と古く、1944年にまでさかのぼります。
それまで世の中にはベジタリアンという言葉しか存在しませんでしたが、イギリスのレスター・ベジタリアン協会に所属していたドナルド・ワトソン(Donald Watson)氏が、「ベジタリアンの定義、気に食わない」と考え、ヴィーガンという新しい言葉を作りました(参考)。
現在もイギリスを拠点に活動を続けるヴィーガン協会(Vegan Society)が設立されたのも1944年で、ワトソン氏はこの協会の創設者の一人です(参考)。
※お肉やお魚などを意図的に口にしない食生活は、古代ギリシャから存在すると考えられていますが、ベジタリアン(Vegetarian)という言葉は1830年代頃から確認されています。
ヴィーガン(Vegan)という言葉の起源
ヴィーガンというワードの語源は諸説ありますが、この言葉の生みの親のワトソン氏は自身のインタビューで、「ベジタリアン(Vegetarian)の短縮系」と述べています(参考)。
「Veg-etari-an」の太字部分だけ取って、「Vegan」ということですね。
同氏はインタビューで、Veganと名付けた理由について「ベジタリアンから始まり、理にかなった結論にたどり着いたものだから」と発言しており、これがVegetarianの最初と最後の文字を使った背景です。
ヴィーガンはベジタリアンから派生した造語
上の写真のワトソン氏らヴィーガン協会創設者たちが、なぜ肉を食べないベジタリアンに納得していなかったというと、ベジタリアンは乳と卵を口にしていたからでした。
創業者らは、動物の権利に真面目なとても深く考える(こじらせ思考な)方々だったようで、ものすごく噛み砕いて言うと、
「ベジタリアンが肉や魚を食べないのは賛同するけど、卵には鶏が、乳には牛を使うよね。直接食べなくても、その鶏も牛も酷い環境で生かされて結局殺されてさ。同じことじゃない?」
という疑問から、卵も乳も口にしない、すなわち鶏と乳牛を搾取しない食生活の概念を新たに作ったとのことです(参考)。
現在においてもビーガンの定義はその当時とほぼ変わっておらず、お肉やお魚だけでなく、卵や乳も口にしない食生活のことを指しています。
ヴィーガンとベジタリアンの違い
さて、そして同じ菜食主義の一種であるベジタリアンと、そこから派生して生まれたヴィーガン(ビーガン)との違いですが、「食べるモノ・食べないモノ」にフォーカスして簡単に比較すると、下の表ようになります。
カテゴリー | 肉 | 魚 | 卵 | 乳 | 蜂蜜 |
---|---|---|---|---|---|
ベジタリアン | × | × | ◯ | ◯ | ◯ |
ヴィーガン | × | × | × | × | × |
お肉やお魚など「どっからどう見ても動物的なモノ」だけを食べないベジタリアンに対して、ヴィーガンは、卵や乳製品など「動物から得たモノ(動物を搾取したと考えられるモノ)」までも口にしない、というのが一番の違いです。
さらにヴィーガンは、蜂蜜(はちみつ)も口にしないのも珍しくありません。
※日本に古くからある精進料理も基本的にはヴィーガン同様、動物性の食材を一切使用しません(肉や魚などに加えてネギやニンニクなどの五葷も避けるのが一般的です)。
より細分化できるベジタリアン
一層ややこしくなりますが、べジタリアンを更に細分化することもできます。
ベジタリアンの中にも個々の考え方の違いや体質(アレルギー等)により「卵は食べないけど乳製品は食べる」というタイプや、逆に「乳製品は食べないけど卵は食べる」というタイプがあります。
卵を意味する「オヴォ(Ovo)」と、乳を意味する「ラクト(Lacto)」という単語を使って、以下のように分けることができます。
カテゴリー | 肉 | 魚 | 卵 | 乳 |
---|---|---|---|---|
オヴォ・ラクト・ベジタリアン | × | × | ◯ | ◯ |
オヴォ・ベジタリアン | × | × | ◯ | × |
ラクト・ベジタリアン | × | × | × | ◯ |
難解なベジタリアンの区別化ですが、「ベジタリアンは基本的に卵と乳製品OKだけど、どっちかだけNGな人もいる」という程度に覚えておいてもいいかもしれません。
魚OKのベジタリアンも?
また、野菜だけのイメージが強いベジタリアンですが、「お肉だけを食べず、魚やエビなどの魚介類は食べる」というペスコ・ベジタリアンと呼ばれるタイプもあります。
カテゴリー | 肉 | 魚 | 卵 | 乳 |
---|---|---|---|---|
ペスコ・ベジタリアン | × | ◯ | ◯ | ◯ |
ペスカタリアンとも呼ばれるこの食生活は、魚を食べるので厳密には日本語の菜食主義には当てはまりませんが、学術論文等ではベジタリアンの一種として扱われています(参考)。
80年近く変わらないヴィーガンの定義
1944年から約75年もの間、「食べるモノ/食べないモノ」に関しては当時のままの定義を保っているヴィーガニズムですが、現代においては医学や栄養学の発展、畜産の巨大産業化、環境問題の顕在化などに伴い、人々がヴィーガンを実践する動機は当時と比較すると大きく変化しています。
そこでここからは、人々は21世紀の今、「なぜヴィーガンになるのか?」という疑問にお答えすべく、菜食主義の実践動機やその背景についてみていきましょう。
動機ごとに3種類に分かれるヴィーガン
お肉、お魚、卵、乳、蜂蜜を口にしない人は、基本的にみんなヴィーガン(ビーガン)というカテゴリーに分類できますが、こうした人々をあえて動機ごとに細分化して呼ぶこともできます。
ヴィーガンの中の代表的なジャンル(動機)には、以下の3つが挙げられます。
- ダイエタリー・ヴィーガン(健康)
- エンバイロメンタル・ヴィーガン(環境)
- エシカル・ヴィーガン(動物)
「なぜヴィーガンになるか」の理由が分かるカテゴライズ
このような細分化ができるヴィーガンですが、通常はこの3つの動機、全部のコンビネーションで菜食主義を実践するケースが多いため、あまり実用性は高くないのが実際のところです。
ただ、「なぜヴィーガンになるのか」という思考を理解するには便利なカテゴライズですし、稀にヴィーガン同士の会話で「私/僕はエシカル(動物愛護)でやってるよ。あなたは?」のように、相手が何を動機に実践しているのか聞いたりすることもあります。
ヴィーガンになる理由が気になる方だけでなく、既に菜食主義者の方も、さっと目を通しておいてもいいかもしれません。
ダイエタリー・ヴィーガン:健康重視
まず、ヴィーガンの中には、「ダイエタリーヴィーガン(Dietary Vegan)」と呼ばれる、健康に重きを置いたヴィーガニズムがあります。
このダイエタリー(Dietary)は「食の」という意味の英語で、無理やり和訳すると「食のヴィーガン」みたいな意味になります。
※日本では、痩せるための食事制限をダイエットと呼びますが、上述のダイエタリーには「痩せる」や「制限する」のような含みはなく、単なる「食生活」という意味の「ダイエット(Diet)」からきた「ダイエタリー(Dietary)」です。
「お肉は体に悪い」と言うヴィーガン
ダイエタリーヴィーガンは基本的に「動物性食品は身体に良くない」と考えていて、健康上の懸念を動機に実践しています。
動物性食品の摂取をやめることで癌リスクが低減に繋がったり、動物性脂肪の摂取を減らすことで、心筋梗塞や脳梗塞などの循環器系疾患のリスクを下げることに繋がると考えていて、以下のような研究・データを参考にしています。
- WHO(世界保健機関):発がん性物質である赤肉と加工肉
- WCRF(世界がん研究基金):赤肉、加工肉、魚などの発癌性
- NIH(アメリカ国立衛生研究所):赤肉と心筋梗塞リスク上昇
- NHLBI(アメリカ国立心肺血液研究所):卵と心臓病リスク上昇
- PCRM(責任ある医療のための医師の会):乳製品の摂取と癌や循環器系疾患リスク上昇
動物愛護はどうでもいいヴィーガンも?
一般的にヴィーガンは、動物搾取全般を否定し、お肉などを食べないだけでなく、革製品等、動物由来のものを一切使用しないことで知られています。
ですが、自身の健康に重きを置いてくヴィーガンの中には、稀に(少なくとも欧米では)、食以外では動物性のものを制限しないタイプもいます(お肉食べないけど革ジャン着れる、みたいな)。
エンバイロメンタル・ヴィーガン:環境保全重視
健康重視型の他に、エンバイロメンタル・ヴィーガン(Environmental Vegan)と呼ばれる、「環境保全重視タイプ」のヴィーガニズムもあります。
エンバイロメンタル(Environmental)とは、「環境の」という意味の英語で、環境保全を動機に、ヴィーガンを実践していることを表しています。
「畜産は環境に悪い」と言うヴィーガン
お肉好きには悲しいことですが、畜産は、車の排気ガスよりも地球温暖化への影響が強かったり、アマゾン森林伐採(森林火災)の主要因になっていたりする、超巨大産業となってしまっています。
さらに、魚介類においては、乱獲による生態系の変化や漁獲量の減少が顕著で、2050年までに漁場が枯渇する(海から魚が獲れなくなる)ことまでも懸念されています。
- FAO(国際連合食糧農業機関):畜産由来の温室効果ガスと地球温暖化
- IPCC(気候変動に関する政府間パネル):温暖化対策としての菜食推奨
- WWF(世界自然保護基金):畜産起因のアマゾン森林伐採・火災
- Greenpeace(国際環境NGOグリーンピース):畜産・酪農の環境破壊と非効率性
- FAO(国際連合食糧農業機関):漁場の枯渇域拡大
- AAAS(アメリカ科学振興協会):2050年での漁場消滅予測
可能な限り環境破壊に加担したくないヴィーガン
地球温暖化の影響が顕在化し、世界各地で熱波やハリケーン、洪水、干ばつ、森林火災などが立て続けに起こる昨今、環境問題を動機にヴィーガンを実践する人も増えていて、そうしたヴィーガンは上記のような研究やデータを参考にしています。
自分一人がお肉やお魚を食べなくなったところで、なんの影響も持たないことを自覚しながらも、「せめて自分だけでも、この環境破壊に加担していたくない」。
そんな思いで動物性食品を避けて生きるのが、このエンバイロメンタル・ヴィーガンです。
植物性代替肉のビヨンドミート創業者も、環境保全を動機とするヴィーガン実践者です。
エシカル・ビーガン:アニマルライツ重視
3つ目のタイプは、エシカル・ヴィーガン(Ethical Vegan)と呼ばれるヴィーガニズムです。
エシカル(Ethical)には、「倫理的な」とか「道徳的な」という意味があり、動物愛護を動機として実践しているヴィーガンがここに当てはまります。
「動物かわいそう」と言うヴィーガン
エシカル・ヴィーガンたちの最優先事項は「動物愛護」ですので、動物が絡んで生産されたモノ全般に対して否定的です。
食はもちろん、ファッションや化粧品などの日用品に関しても「可能な限り動物搾取をしたくない」という思いが強く、乳製品や卵、はちみつなども口にしないだけでなく、レザーやウール、毛皮、ダウンなどの動物性のものを着用せず、虫であるカイコから作った絹(シルク)の製品をも避けることがあります。
また、動物実験にも反対で、マウス実験などを経て開発された化粧品やシャンプーなどの日用品も、可能な限り避ける傾向にあります。
お砂糖も使わないヴィーガン?
このエシカル・ヴィーガンの中には、サトウキビなどの植物からできている白砂糖の摂取を否定する人もいます。
「サトウキビは植物なのに?」と突っ込みたくなってしまいますが、その理由は白砂糖の製造工程にあります。
一般的に、砂糖を白く脱色する工程で骨炭(こったん)という動物(主に牛)の骨(参考)を使っているのですが、それが「動物の使用」に当たると考えるためです。
「どこまで気にするか」はヴィーガンの中でも人それぞれですが、エシカル思考の人の中には、原材料に直接含まれなくても、製造工程で動物性のモノが使われる飲食料品を極力避けようとする人もいるということは、頭に入れておいてもいいかもしれません。
世界中で増加するヴィーガン人口
単なる「動物のため」だけでなく、環境問題など、21世紀特有の様々な理由により増加しているヴィーガンやベジタリアンですが、特にここ数年、欧米諸国におけるヴィーガン人口の増加には、目を見張るものがあります。
そこでここからは、世界のヴィーガントレンドの推移についてみていきます。
世界のヴィーガントレンド推移
世界各地で急増しているヴィーガン/ビーガン、ベジタリアンなどの菜食主義者ですが、特に増加が顕著なのが、アメリカ、イギリス、ドイツなどの欧米先進国です。
ここ数年で、「ビーガン人口が倍増!」「10人に1人がベジタリアンに!」なんて地域もあるほどで、2019年には、大手ハンバーガーチェーンのバーガーキングがヴィーガン向けのワッパーを全米で試験販売したり、あのケンタッキーフライドチキンもアメリカ(地域限定)でヴィーガンチキンナゲットを導入し始めました。
イギリスでも、ケンタッキー、そしてマクドナルドまでもがヴィーガンメニューを導入するなど、欧米中心に各国で菜食対応が加速しています。
代替肉のスタートアップも増加
さらに、飲食店におけるヴィーガン対応の浸透だけでなく、シリコンバレーのビヨンドミートなど、代替肉(植物でできた、お肉を模した食品)を開発するスタートアップも世界各国でしのぎを削っていて、中には上場を果たす企業も出てきています。
流行りを通り越し、もはや新たなスタンダードにもなりつつあるヴィーガンですが、この先では菜食主義者の人口増加について、より詳しく数字で紐解いてみます。
アメリカ:3年でヴィーガン人口500%増加
まず、ここ近年で最もビーガンの実践者が増加したと言える国は、アメリカ合衆国です。
GlobalDataのレポート(2017年)では、2014年の調査時に総人口の1%だったヴィーガンが、3年後の2017年には6倍に上昇したという結果が出ています。
※その他様々な調査機関が米国内の菜食人口調査をしており、テータ収集方法、サンプルサイズ、結果数値に差異があります。
アメリカでは16人に一人がヴィーガン
アメリカの総人口は約3億3,000万人ですので、上のレポートを基にすると、2017年時点で2,000万人近くがヴィーガンを実践していると推計できます。
最大8万人収容できる新国立競技場にアメリカ人が集まったとすると、その中に約5,000人もヴィーガンがいることになります(計算上)。
元々のヴィーガン人口が1%とごく少数であったこともありますが、3年間で6倍にも増えたのは驚異的で、最大手ファストフード店が次々にヴィーガンメニューを導入しているのも納得ですね。
イギリス:5年で菜食主義者約4倍に増加
イギリスも、アメリカに次いで、ここ数年でのヴィーガン増加が顕著な国の代表格です。
イギリスに本部があるヴィーガン協会(Vegan Society)が実施した調査によると、2018年時点で国内に推計約60万人のヴィーガンがいて、2014年の約4倍になったと発表しています。
また、別の調査では、2018年時点でイギリス人の350万人以上(総人口の7%)がヴィーガンという結果も出ています。
続々とオープンするヴィーガンレストラン
正直なところ、上の調査はどちらもサンプルサイズが小さく(n=2,000)数値の正確性に疑問は残ります。
ですが、マクドナルドやケンタッキーまでヴィーガンメニューを導入を発表し、首都のロンドンだけでもヴィーガンレストランが150店舗以上あることなども加味すると、英国での菜食人口増加は疑いようのないことでしょう。
著名人の啓発活動も盛んなイギリス
総人口7,000万人以下ながら、ベジタリアンを含めた菜食主義者が1,000万人とも推計されるイギリスですが、この普及にはビートルズのポール・マッカートニーなど、著名な英国人の啓発活動も影響しています。
ポールマッカートニーは「ミートフリーマンデー(Meat Free Monday)」の発起人でもあり、「肉の摂取を極力減らす」というフレキシタリアンを実践する人も増えています。
フレキシタリアンの詳細はこちらの記事で。
ドイツ:10人に1人以上がベジタリアン
アメリカ、イギリスに加えて、「ソーセージとビール」のイメージも強いドイツも、菜食主義人口が多い代表的な国です。
2015年の論文に記載のあるProVegの調査では、ドイツ総人口の約10%に当たる約870万人がヴィーガンもしくはベジタリアン(菜食主義者)であるとされていて、世界でも有数の菜食者割合の高い国です。
ヴィーガン以外も肉の消費を控える傾向に
ヴィーガンに加えて、イギリスでも増加しているフレキシタリアン(ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義ではないが、意識的に肉の消費を減らす生活)を実践する人の数は、ドイツ国内に420万人いると推計されています。
ヴィーガン以外からの肉料理以外の需要増加も影響し、首都のベルリン(ベルリン中心地から8km以内)だけでも60店舗以上のビーガン専門レストランがオープンしていて、ヴィーガン対応可能なお店の数を含めると450店舗以上にもなります(参考)。
世界のビーガントレンドの詳細はこちらの記事へ。
若い世代&都市部に多いヴィーガン
上記したような欧米先進国を中心に増加を続けるヴィーガンですが、世界の実践者の内訳を調べたリサーチによると、約60%が35歳未満であり、ヴィーガンのトレンドは若い世代が牽引しているものと言えます(55歳以上は9.4%、65歳以上は2.1%)。
また、「Vegan」のGoogle検索数は、2015年に前年比32%増、2016年には前年比90%増となっていて、2018年までの5年間で約280%上昇しています(GoogleTrend Data)。
デジタルネイティブが多い35歳未満が中心に、インターネットで情報収集・発信をしながら浸透しているのがヴィーガニズムであることが伺えます。
リベラル思想は2.5倍ヴィーガンになりやすい
また、政治思想もヴィーガン実践との関連性が見受けられ、GALLUPの調査では、保守的志向の人に比べてリベラル志向の人の方が2.5倍もヴィーガンになりやすく、ベジタリアンもリベラル派が5倍以上という結果になっています。
リベラル思考とは、基本的に既定概念に固執せず多様性を受け入れる思考を持った人たちですので(LGBTQムーブメントを牽引しているのもリベラル寄りの人々)、ヴィーガンやベジタリアンという、常識からちょっと逸脱した新しい概念も、フラットに受け入れることができる性格なのだと考えられます。
リベラル思考の人は都心部に集中する傾向もあるため、ビーガンやベジタリアンはアメリカではニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコなど、イギリスではロンドン、ドイツではベルリンなどの主要都市に多く集まる傾向にあります。
ヴィーガン人口増加に影響したドキュメンタリー
欧米諸国におけるヴィーガン人口増加には、上述したようなインターネット世代の拡散力も関係していますが、近年公開されたいくつかのドキュメンタリーも大きく影響しています。
アメリカでのアンケート調査では、ヴィーガンもしくはベジタリアン実践者の42%もの人がなんらかのドキュメンタリーをきっかけに菜食を始めたと答えています(n=6,503)。
健康のためか環境のためか、はたまた動物のためか、理由は人それぞれですが、半数近くもの人がドキュメンタリーをきっかけにヴィーガンをはじめています。
健康関連のドキュメンタリー
世界97ヶ国の述べ1万人以上を対象とした2019年の調査では、菜食主義者の約2割が健康のためという動機でヴィーガンやベジタリアンを実践しているという結果になりました。
近年公開された、肉や魚、卵や乳製品など、動物性食品摂取の健康への悪影響を訴えたドキュメンタリーで代表的なのは、以下の2つです。
- Folks Over Knives:フォークス・オーバー・ナイブズ(2011年)
- What the Health:ワット・ザ・ヘルス(2017年)
また、2019年公開のゲームチェンジャー(The Game Changers)も、菜食がトップアスリートにとっても有益であることを訴えた、影響力のあるフィルムです。
Folks Over Knives:フォークス・オーバー・ナイブズ
出典:https://www.forksoverknives.com
Netflixで視聴可能
アメリカ発のこのドキュメンタリー、日本語タイトルでは「いのちを救う食卓革命」と、なんだかちょっと胡散臭い名前になってしまっていますが、国内外で大きな反響を呼んだ健康目線でヴィーガンを推奨する作品の1つです。
この記事のはじめの方で紹介した3種類のヴィーガニズムに当てはめると、これらのドキュメンタリーを観てヴィーガンをはじめた場合、ダイエタリー・ヴィーガンの要素が強いと言えます。
What the Health:ワット・ザ・ヘルス
出典:https://www.whatthehealthfilm.com
Netflixで視聴可能
このワット・ザ・ヘルスもアメリカ発のドキュメンタリーで、2017年にネットフリックス等ネット限定で公開され、世界各国でセンセーションを巻き起こした作品です。
これら2作品影響により「観た次の日からヴィーガンになった」なんて人もいて、NBA(米プロバスケットボール)選手のカイリー・アービン(Kyrie Irving)や歌手のニーヨ(Ne-Yo)も、この作品の影響でヴィーガンになったことが知られています(参考)。
The Game Changers:ゲームチェンジャー
出典:https://gamechangersmovie.com
Netflixで視聴可能
2019年公開のゲームチェンジャーも完全菜食のヴィーガンを推奨するものですが、上の2作品が「肉などの悪い部分」に焦点を当てていた一方、この作品は、より「菜食の有効性」にフォーカスした作品です。
「肉が悪いことはわかったけれど、野菜だけにするのは栄養面で心配」というヴィーガン潜在層に訴えかけるような内容になっています。
環境問題のドキュメンタリー
2019年の調査では、ヴィーガンやベジタリアンの実践動機で第3位となった環境問題ですが、これに関してもメッセージ性の強いドキュメンタリー作品がいくつかあります。
最も社会的インパクトが強かったのが、2014年のカウスピラシー(Cowspiracy)というドキュメンタリーです。
Cowspiracy:カウスピラシー
出典:https://www.cowspiracy.com
Netflixで視聴可能
このドキュメンタリーには健康問題や、一般的なヴィーガンのイメージでもある動物愛護的な要素は一切なく、100%「畜産と環境」だけにフォーカスした斬新な作品です。
食糧生産(農畜産業)のサステイナビリティー・持続可能性に焦点をあて、現代の畜産業が引き起こしている環境破壊など数々の問題点を挙げ、ソリューションとして菜食実践を提唱する内容です。
「不都合な真実」&「地球が壊れる前に」
出典:https://www.beforetheflood.com
カウスピラシーに加えて、畜産にクローズアップしたものではない(直接的に肉食を否定するものではない)ですが、
- 元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏の「不都合な真実(An Inconvenient Truth)」
- レオナルド・ディカプリオの「地球が壊れる前に(Before the Flood)」
なども、環境問題に人々の目を向けさせた影響力のあるフィルムの代表格です。
An Inconvenient Truth:YouTubeで視聴可能
Before the Flood:Netflixで視聴可能
このような地球環境問題解決への解決手段として実践するビーガンは、エンバイロメンタル・ヴィーガンと呼ぶこともでき、ヴィーガン全体の約1割が環境を最優先として実践しています(参考)。
動物愛護のドキュメンタリー
環境問題も自身の健康も、どちらもヴィーガンに重視される点ではありますが、菜食実践の動機トップとして最も多いのが動物愛護です。
上と同じ調査では、ヴィーガンのうち約6割の人が「動物のため」が最も大きいと回答しています。
動物愛護に関するドキュメンタリーはかなり過激に感じる方も多いと思いますが、畜産における屠殺現場の映像を集めたアースリングス(Earthlings)というドキュメンタリー(2005年)が有名です。
Earthlings:アースリングス
出典:http://www.nationearth.com
基本的に普段あまり観たくない映像のコンピレーションなのですが、食用家畜の屠殺のみならず、ファッション業界における革や毛皮、羽毛などの採取場面、ペット業界における動物の扱いなどの映像も含まれます。
誰が見ても落ち込んでしまうような映像ばかりですが、衝撃的すぎてこの作品をきっかけに「お肉を食べなくなった」「革製品を買わなくなった」「ペットショップに行かなくなった」というようになった人は少なくありません。
Blackfish:ブラックフィッシュ
また、食生活とは直接関係ありませんが、水族館の生き物の扱いを取り上げたブラックフィッシュ(Blackfish)というドキュメンタリー(2013年)も、水族館や動物園に行く人を現象させた、影響力のあるフィルムです。
このようなドキュメンタリーをきっかけに、「動物のために」とヴィーガンを実践する人は、エシカル・ヴィーガンにカテゴライズされます。
増加するヴィーガン有名人&セレブ
影響力のあるドキュメンタリーに加え、欧米諸国ではハリウッドセレブや歌手などの著名人がヴィーガンを公言するようになったことも、アメリカやイギリスなどの各国で、若者中心に菜食実践者が増加する背景にあります。
ここではそんなヴィーガンセレブの中から、日本人でも分かる超有名どころだけピックアップして紹介します。
アリアナ・グランデ(Ariana Grande)
まずは、日本でもみなさんご存知の歌手、アリアナ・グランデさん。
21歳の時に自身のツイッターでヴィーガン宣言をし、以降継続していると言われています。
雑誌インタビューなどでもオープンに自身のヴィーガニズムについて話していて、動物愛護的な価値観に加え、健康上の理由から実践しているようです。
レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)
日本中の誰もが知るレオナルド・ディカプリオも、ヴィーガンの一人です。
ディカプリオは環境活動家としても有名な俳優ですが、畜産の環境破壊を主な理由として、ヴィーガンを実践しています。
最近も環境問題を訴えるデモに参加したり、畜産の実情を伝えるドキュメンタリー制作に携わったり、植物性のお肉を作る会社に投資したりと、「環境フリーク」と呼べるほど環境活動に積極的な人物です。
ちなみにヘビースモーカーで、自身の健康の優先度は高くないようです。
ナタリー・ポートマン(Natalie Portman)
映画レオンの少女マチルダ役や、ブラック・スワンの主演としても有名なナタリー・ポートマンも、ヴィーガンの一人です。
妊娠中には卵を食べたこともあったようですが、2009年以降ヴィーガンを実践しています。
ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)
大ヒットした映画、ジョーカーの主役としても有名な俳優、ホアキン・フェニックスも、ビーガンを実践する有名人の一人です。
なんとホアキンさんは3歳の頃からベジタリアンで育ったようですが、宗教的な家族で育った訳でも、両親に強要されてお肉を食べなくなったのでもありません。
Cover Mediaでのインタビューでは、「幼少期に家族で釣り旅行に出かけ、目の前で釣った魚がさばかれるのを見て恐怖を覚えた」と語っています。その頃から、動物性の食べ物は口にしていないようです。
マイリー・サイラス(Miley Cyrus)
若い世代に人気の歌手、マイリー・サイラスも、ヴィーガン実践者の一人です。
動物愛護を理由に2014年から継続していて、自身のインスタグラムで毛皮や狩猟に反対するメッセージなどを発信することもあるほど熱心な活動家です。
ベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)
テレビドラマ、シャーロック・ホームズや、アベンジャーズのドクター・ストレンジで有名な、ベネディクト・カンバーバッチもビーガンであることを公表している著名人の一人です。
映画アベンジャーズのプロモーション活動中にヴィーガンであることを公表していて、2018年には動物愛護団体PETAから、最も美しいヴィーガン2018(PETA’s Most Beautiful Vegan in 2018)にも選ばれています。
ビヨンセ(Beyonce)
有名歌手のビヨンセも、2018年にビーガン宣言をした著名人の一人です。
2012年にも夫のジェイ・Zと一緒に、「22日間ビーガンチャレンジ(22-day vegan challenge)」に挑戦したビヨンセですが、今回は22日間ではなく現在も継続しているようです。
ポール・マッカートニー(Paul McCartney)
ビートルズのメンバーは全員ヴィーガンとして有名ですが、現在も啓発活動に積極的なのがポール・マッカートニーです。
実娘のステラ・マッカートニーは、表参道にも店舗がある「動物性素材不使用」の高級ファッションブランドを経営していますが、親子共に熱心に活動をしています。
ちなみにポールとステラは、「月曜日はお肉を食べない日にしよう」と呼びかけるミートフリー・マンデー(Meat-free Monday)の発起人でもあります。
ブラッド・ピット(Brad Pitt)
ブラピことブラッド・ピットも、肉、魚、卵、乳を口にしないヴィーガンと言われています。
数年前にアンジェリーナ・ジョリーとの離婚の話題で盛り上がったりもしましたが、ブラッド・ピットは環境問題と動物愛護双方の動機から、1989年以降ヴィーガンだそうです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
動物愛護的思想だけでなく、自分の健康や環境問題まで、様々な理由で実践されるヴィーガニズム。
攻撃的なイメージがあったり、主張に矛盾を感じることも少なくないヴィーガンですが、もしどこか一箇所でも共感できるところがあったら「ちょっと今日はお肉のかわりにお豆腐にしてみようかな」とか、気軽な気持ちで試してみるのもありかもしれません。
思い立ったときに、少しだけでも。
この記事の情報が、みなさんの生活のどこかでお役に立てば嬉しいです。